29日に新ルートが全線開通した国道340号の遠野、宮古両市にまたがる立丸(たつまる)峠。旧道をバス運転手として、22年間往復してきた遠野市東舘町の山沢孝士さん(88)は「峠は歴史の生き証人。新道路も地域に愛されてほしい」との思いでこの日を迎えた。まだ自家用車が珍しい時代で、バスは唯一の公共の足だった。現地に立った山沢さんは、交通の難所を人々の夢や希望を乗せて走った運転手人生を思い返した。

 青森県田子町出身の山沢さんは、終戦した1945年に国鉄入り。50年に同市に異動し、52年に1日3往復で新設された立丸峠路線のバス運転手となった。

 峠付近の道路は狭く、急カーブと急勾配が続く。通過は緊張の連続だ。電話もなく「万が一故障や事故があったらと思うと、不安に押しつぶされそうだった」と振り返る。突然の大雪で通行止めになり、旧川井村から半日以上かけ、盛岡や宮古、釜石経由で遠野に戻ることもあった。

 新ルートの全線開通に合わせ、山沢さんは約10年ぶりに現地を訪ねた。「立派に整備されて驚いた。これなら通行者も安全安心だね」。温かなまなざしの先に、住民の生活の足を担ってきた誇りがにじんだ。