日ロ間の北方領土交渉が急展開しそうな雰囲気となってきた。キーワードは「2島先行返還論」だ。

 今月行われた首脳会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約締結交渉を加速させる方針で一致した。宣言は、平和条約締結後に北方領土のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すと明記している。

 これによって2島先行を選択肢として交渉に踏み出すことに、外交専門家から賛否両論が沸き起こっている。

 賛成論者は、残る択捉、国後両島での経済活動展開の可能性を挙げる。反対論者は、尖閣諸島問題などに飛び火する懸念も指摘する。また、2島すら危ういとの見方もある。

 日本政府の立場は北方四島を固有の領土とするものだ。「4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という基本的方針に基づいて交渉している。ただ、4島一括返還は極めて困難とみられている。ロシアが実効支配する中、2島先行は現実的と言えなくもない。

 しかし、プーチン大統領は早速、けん制球を投げてきた。宣言には引き渡した後、「島の主権がどちらになるのか書かれていない」として主権も交渉対象になるとの考えを示し、難しい相手であることを印象付けた。

 大統領はこれまで、2島に米軍が駐留する可能性にも懸念を示しており、安全保障も重い課題だ。

 安倍晋三首相は30日からの20カ国・地域(G20)首脳会合の際に大統領と会談するほか、年明けにもロシアを訪問するなど協議を重ねる考えだ。「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」の言葉は、歴史に残る業績を成し遂げようとの意志の表れだ。

 ただ、2島先行へのシフトとなるなら、「4島全ての帰属を解決」という政府方針からの転換となる。首相は国民に対して丁寧な説明を行い、理解を得なければなるまい。

 2島先行論は過去にも浮上した。ただ、その後に4島一括論が出て立ち消えになっている。国民の意識も背景にあろう。

 毛皮を求めて南下するロシア人と、警戒する江戸幕府の調査隊が18世紀後半に北方領土周辺で出合い、その後、盛岡藩も警備に当たった。千島列島周辺を巡っては国境線が変遷したが、4島は日本の領土だった。固有の領土とするゆえんだ。

 その基本を変えられるのか。前のめりになって突き進み、その結果、禍根を残すようなことは避けなければならない。展開によっては政権の行方に大きな影響を与えるだろう。