峠道は今でも怖いときがあるが、昔はもっと怖かったに違いない。暗い夜道を、急いで歩いて越えることもあったろう。故に伝説や昔話が生まれる。柳田国男の「遠野物語」の中にもさまざまあるのは、峠の多い盆地だからだろう

▼ある峠では「必ず山女山男に出逢(あ)ふ」ため誰もが恐ろしがって往来がまれになり、ついには別の峠へ道を開いた。その別の峠にも怖い話があり、薄月夜、谷の底から何者かが「面白いぞー」と呼ぶ声が聞こえた

▼峠と峠の間では、荷を運ぶ馬の列をオオカミの群れが狙う。ある時は「二、三百ばかり」の集団が追ってきた。人馬は一カ所に集まり、周囲を燃やして防戦。絶滅前には身近にいた動物の怖さに、実感がこもる

▼そんな遠野郷でも主要な峠の数々は舗装した道路となり、各地との交流を進展させてきた。沿岸部の各方面にも舗装の峠道が伸びており、東日本大震災では救援や復旧に大いに役立った。ただ、難所はまだある

▼その一つ、遠野市土淵町と宮古市小国をつなぐ国道340号の立丸(たつまる)峠工区が来週29日に全線開通する。完成したトンネルをプレイベントで歩く両市の住民の表情は、長年の悲願が達成された喜びにあふれていた

▼冬は積雪での全面通行止めも多かったといい、利便性がぐんと増す。それでも怖い思いをしないよう、安全運転を忘れまい。