競馬の障害レースで不自然な大穴が続く。勝ち馬に興奮剤を投与したのは明らかだが、なぜか薬物は検出されない。障害レースの理事は、内部の犯行と見て厩舎(きゅうしゃ)に「スパイ」を潜り込ませる

▼競馬ミステリーの大御所、ディック・フランシスの「興奮」に描かれる。入り込んだスパイは、馬を興奮させる恐るべき手口を目撃する。これから読む人のためにやめておくが、事実は小説よりも奇なりではないか

▼岩手競馬の競走馬から禁止薬物がきのうまで相次いで検出され、開催の自粛に追い込まれた。不気味なのは動機が見えないことだ。薬物を与えても、すぐ検査で分かり失格になる。馬を勝たせようとする意味はない

▼すると、別の動機が浮かぶ。岩手競馬は赤字なら即廃止の運命にある。何らかの意図を持つ者が開催を中止させ、経営を追い込もうとしているとすれば…。さしものフランシスも顔負けのミステリーだろう

▼障害レース理事の言葉に尽きる。「競馬という事業は何千人という従業者を抱えている」。不正が続いたら「大衆の信頼を失って、たとえ回復できたとしても長い年月を要することになる」(菊池光訳)と

▼何千人もの雇用があるから、330億円を貸して存続させた岩手競馬だった。また薬物が出たら信頼は地に落ちる。再生を願うファンと県民を裏切ってはならない。