国立成育医療研究センターなどのチームが先ごろ発表した調査では、2015~16年に102人の女性が妊娠中から産後にかけて自殺していることが明らかになった。このうち92人が出産後の自殺で、背景の一つに考えられているのが、産後うつ。自殺に至らずとも、母子関係や子どもの発達に影響を与えかねない。虐待などを未然に防ぐ観点からも、早期の発見と支援が望まれている。

 産後うつは出産後の数週間から数カ月以内に発症するケースが多く、産婦の10~15%が経験する。大きなライフイベントを経て体調や環境が激変し、女性の人生の中でも最もうつ病になりやすい時期ともいわれる。子育てへの不安や自信喪失、疲労感、食欲不振などが主な症状。精神疾患や妊娠中の不安などを抱えていたりするとリスク因子ともなるが、疲れやストレスなどから誰もが発症しかねない。

 県内では現在、全ての産科医療機関と市町村の保健センターで産後の母親にメンタルヘルスの検査を行っている。ハイリスクと判断された場合、関係機関と連携し、状況に応じて助産師や保健師らが相談や育児支援などを行うフォロー体制を敷く。特にも産後うつの女性は自分からケアを求めない傾向にあるため、適切な時期の積極的な働き掛けが重要になっている。

 初めての出産から自宅に戻ったころ、朝が来ると涙がこぼれる日が続いた。夫は仕事に出れば、時計の針がぐるりと一周するころにしか帰ってこない。外出もままならず、相談相手はインターネットの掲示板。慣れない子育てに心細さが募った。

 実家に駆け込んだり、夫に活躍してもらったり、ヘルプを発信することで、いつしか途方に暮れることは少なくなった。それが、産前産後のホルモンバランスの変化による一時的なマタニティーブルーであろうと気付いたのは、ずっと後になってから。産婦の約30%にみられる現状を多いとみるか、少ないとみるか。

 目の前の子の世話に追われる母親は、自身の心と体の健康に意識を向ける余裕があまりない。周囲も、妊娠中ほど体調を気遣ってくれるわけでもない。「育児は、育自」。そんな言葉も、時には追い詰める。

 核家族化が進む中、子育てはともすれば孤立しがちだ。外出や休養、ときには誰かに気持ちを打ち明けることが孤独感を和らげ、産後うつの予防につながる。母子を見守る「目」や「手」が身近なところにいくつもあるほど、その安心感が大切な命を守る。

 昨年1年間に県内で生まれた赤ちゃんは8175人。いとおしい存在から、母親の笑顔を奪うことがないように。