海外へ魅力アピール

「香港フードエキスポ」で開発した商品をアピールする海洋高の生徒=8月(能水商店提供)

 新潟県糸魚川市の海洋高(椎谷一幸校長、生徒232人)は、サケの魚醤(ぎょしょう)「最後の一滴」に象徴される水産加工品の開発で近年、注目されている。今春、生徒と商品開発や製造販売実習に携わってきた教師が退職し、開発品販売やキャリア教育支援を担う会社「能水商店」を設立。学術的教育と職業教育を同時に進める「糸魚川版デュアルシステム」として、本格的なキャリア教育の確立を目指す。

 同校は県内唯一の海洋系高校。起源は明治時代までさかのぼり、能生水産高などを経て1993年、現在の海洋高となった。生徒は以前から食品加工を学んできたが、現在のようなキャリア教育の体制が確立されたのは2015年、同窓会「能水会」や同市と連携して水産加工事業所「シーフードカンパニー能水商店」が設立されたことが大きい。

 きっかけは、これに先立つ13年。地元の能生川で取れたサケが、イクラを採った後に捨てられていることを知った同校食品研究部の前身のクラブの生徒が「有効利用はできないか」と考え、「最後の一滴」を開発したことだった。水産加工品を製造できる事業所の完成に伴い、商品販売を生徒が現場で実践する機会が多くなった。

 その後、商品のラインアップは増え、甘エビを使った魚醤や、ポン酢、マコンブを練り込んだ麺類など約20種類を商品化した。県内の小売店や飲食店などで扱われるほか、県外からの引き合いも増えている。17年度の売上高は約3400万円だった。さらに海外との本格的な取引も目指す。

 海外各地の商談会や展示には、食品研究部員らが参加。商品知識や英会話のテストで選抜された生徒が派遣される。

 ことし8月には初めて香港で開かれた展示会「香港フードエキスポ」に参加。1、2年生の計4人が、プロのバイヤーや料理人らに商品の特徴や価格などを英語で説明した。

海洋高の取り組み報告会で香港での活動について発表する生徒=9月25日、新潟県・糸魚川市役所

 2年生の金山芽生(めい)さんと田村渓(けい)さんは「入学前は、まさか自分が海外で商品を紹介することになるとは思っていなかった」「海外で売ることができる商品作りや、しっかり説明できる英語力を身に付けられるよう頑張りたい」と話す。

 映画関連の学校への進学を希望している食品研究部長の3年、門脇巧弥さんは「チームでモノを開発・製造し、マーケティングをしながら良さを伝えていくのは、どんな仕事でも同じはず」と経験を生かしたいと考えている。

 16年に発生した糸魚川大火からの復旧・復興が喫緊の課題となっている同市にとっても、地元ブランドをアピールする同校への期待は大きい。

 市、同校、能水商店は、産学官連携による水産資源の活用を目指す協定を結んでおり、市としても販売の機会提供やPR支援で協力するほか、財政支援も検討している。

 9月に市役所で開かれた学校の取り組み報告会では、椎谷校長が「実践的で魅力的な取り組みを今後とも進めていきたい」と強調。これに対し米田徹市長は「糸魚川の特産をしっかりと位置づけしてくれた」と述べ、さらなる展開へ期待を込めた。

(新潟日報社)


支える人たち

担い手育成見据える

松本将史さん

 海洋高が開発した商品の取り扱いはことし4月から、同校を退職した松本将史さん(39)が設立した会社「能水商店」が担っている。

 社長を務める松本さんは起業した理由を「教員をしながらでは時間や立場などの面で制約があり、しっかりとした運営ができないから」と語る。販路の拡大を目指し、連日、全国を駆け回っている。

 海洋高の商品をこれまで扱っていた「シーフードカンパニー能水商店」は、高校と同窓会、糸魚川市の3者が連携して設立された。現在の能水商店も3者の連携を引き継いだ。

 松本さんは、こうした3者連携の取り組みを「糸魚川ならでは」と感じている。海に面した糸魚川の水産資源、その水産資源と食品に関する研究を行っている海洋高があるからだ。さらに、この環境を生かしたキャリア教育の拠点となることで、県内外から糸魚川に人を呼ぶことができる可能性についても言及する。

 長期的には水産業の担い手育成も見据えている。例えば、サケの魚醤の販売量が増えれば、漁業者の収入の安定になる。地元の漁協が取り組んでいるサケの稚魚の放流量も維持でき、資源の維持も期待できる。松本さんは「ビジネスとして回っていく態勢ができれば、将来の資源管理にもつながる」と強調する。

事業規模拡大に期待

岩崎昇さん

 長年、学校を支援してきた同窓会「能水会」会長の岩崎昇さん(72)=東京都在住=は「市や松本さんと卒業生が一丸となって築き上げてきた事業とキャリア教育のプラットフォームを、うまく会社組織に引き継げた」と振り返る。「海洋高の取り組みが注目されることは、糸魚川出身者の喜びになっている」と声を弾ませる。

 前身の能生水産高時代も含め、全国のさまざまな業界にOB・OGがおり、これまでも学校の活動に協力してきた。今後も会社組織となった能水商店を中心に積極的に協力していく考えで、「産学官連携のキャリア教育で、一層の地域振興と事業規模の拡大に期待したい」と力を込めた。