来年10月に消費税を予定通り10%に引き上げる。そう安倍晋三首相が表明したことで、先延ばしされてきた「税と社会保障の一体改革」は区切りを迎えた。

 だが消費税を2%上げるだけで、日本の社会保障費を巡る問題は何ら解決しない。むしろ、「その先」を考える方が重要と言える。

 団塊の世代が年を重ね、75歳以上の人は2025年まで急激に増えていく。その後も65歳以上の人は40年ごろまで増え続ける。しばらく高齢化は止まらない。

 平成の30年間で、医療給付費は倍以上になった。高齢者の数がピークに近づく40年には社会保障費が190兆円になる。国の一般会計予算の倍に当たる数字だ。

 際限なく膨らむ社会保障費をどうしていくか。財務省が今月、審議会に改革案を示し、論議が始まった。75歳以上の医療費負担を1割から2割に引き上げるなど負担増のメニューが並ぶ。

 安倍政権は、健康づくりをはじめ「予防」による医療費削減を重視する。だが財務省は「予防による削減効果は明らかでない」と政権に物申す姿勢を見せ、給付減など「痛み」も必要と訴える。

 政府の税制調査会も社会保障を巡る税制の検討に着手した。年金が先細りする中、老後の生活資金を蓄える人への支援が焦点になる。

 しかし、いずれの議論も熱気に乏しい。理由は、はっきりしている。負担と給付の見直しについて、安倍政権が来夏の参院選後に先送りしようとしているからだ。

 各種の世論調査で、社会保障は国民の関心が最も高い。自分の老後にもらえる年金の額は。医療や介護サービスを受けられるだろうか。

 そして社会保障のサービスを保つために、どのぐらいの負担が必要なのだろう。10%の消費税で支えきれないことは周知の事実だけに、誰もが知りたがっている。

 このまま医療・介護費が膨らみ続けると、社会保険料も増えていく。健康保険や介護保険料の負担で給料の手取りが減り、ますます現役世代にしわ寄せが及ぶ。

 社会保障を支えるために、消費税をどこまで上げるのか。税制や保険料負担の全体像を示す責務が政治にはある。それを避けるのは誠実な態度とは言えない。

 議論の行方によっては、今より給付を削らざるを得ないサービスも出てくるとみられる。「痛み」も封じることなく選挙で語るべきだ。

 「税制のことは国民の声を聴かねばならない」。安倍首相は、消費税増税の延期を国政選挙で2度訴え圧勝した。その論法なら負担増の時も国民の声を聴くのが筋だろう。