出張の折、どら焼きを食べながら、陸前高田市の高台で復興が進む街並みを眺めた。かつて、さら地に乾いた風が吹いていた。今、秋風がしっとりとした潤いを含んでいることに気づいた

▼最近、どら焼きを食べることが多い。先月死去した樹木希林さんを追悼しようと、最後の主演作となった映画「あん」を見たのがきっかけ。どら焼き屋で働く高齢の元ハンセン病患者を、樹木さんが演じている

▼映画の根底にはハンセン病差別の問題がある。とりわけ感動的なシーンは、主人公の丁寧なあん作り。小豆の言葉に耳を澄ます。「どんな風に吹かれて小豆がここまでやってきたのか、旅の話を聞いてあげる」

▼「私たちはこの世を見るために、聞くために、生まれて来た。…だとすれば、何かになれなくても、私たちには、生きる意味があるのよ」。この言葉、主人公というより樹木さん自身の言葉のように感じられる

▼社会から隔離され、分断された元ハンセン病患者たち。病気や障害を抱えた人、あるいは津波で全てを奪われ、生きる意味を見いだせず孤立している人が、どう地域とつながりを取り戻していくか。重い問題だ

▼ひょうひょうと演じる樹木さんの姿にヒントがあるように思う。県内外の映画館で「あん」の追悼上映が企画されている。樹木さんは亡くなったが、風は吹いている。