恐れていた危険球が、いきなり飛んできたということだろうか。内政干渉につながるような要求を、見過ごすわけにはいかない。

 米国のムニューシン財務長官が、日本との新通商交渉で「為替条項」を入れるよう求めると表明した。日本が円安に誘導し、輸出を有利にするのを防ぐ狙いがある。

 既にトランプ政権はカナダ、メキシコとの自由貿易協定で為替条項を認めさせた。これから日本や欧州連合(EU)などにも要求していく姿勢を見せている。

 長官発言は、すなわちトランプ大統領の意向だろう。トランプ氏は一昨年の大統領選で、日本が輸出を増やすため円を安く誘導していると声高に主張していた。

 日本を「為替操作国」に指定し、報復措置を取るとまで述べている。大統領になって為替に関する暴言は控えているが、いよいよ本音が表れたのではないか。

 米国との新しい通商交渉を控える日本にとって、為替条項は最も触れられたくない点だった。それほど政策を行うのに影響が大きい。

 日本は7年近く為替介入はしていないが、急激な円高を防ぐために介入せざるを得ない場合がある。為替条項が入れば、政策の手足を縛られることになりかねない。

 さらに米国は、日銀の大規模金融緩和を問題としてくる可能性もある。緩和策は円安が目的ではないというのが日本の言い分だが、米側がそう捉えるとは限らない。

 金融緩和で生まれた円安は、アベノミクスの生命線と言える。週明けに株価が下がったのは、市場が円高を警戒し始めたからだろう。

 そもそも通商交渉と為替政策は別の議論だ。それをセットにして譲歩を迫る米国の姿勢には問題があり、日本は毅然(きぜん)として為替条項を拒否しなければならない。

 もっともトランプ政権は、巨額の対日貿易赤字を減らす交渉材料として、為替をちらつかせている節がある。自動車への追加関税と同様、日本を揺さぶる戦術だ。

 トランプ大統領は「自動車への追加関税がなければ、誰も交渉しようとしなかった」と、日本を2国間交渉に引き込んだ成果を自賛した。相手を譲歩させる材料に関税を使っていることが分かる。

 年明けに始まる日米の新しい通商交渉は、自動車と農林水産品が大きな焦点になる。既に米側は、農産品で日本がEUと結んだ以上の市場開放を求めている。

 日本は環太平洋連携協定(TPP)以上の市場開放はしない構えだが、一部はTPPを超す譲歩も示唆する。圧力の前に、農業を差し出すことのないよう念を押したい。