歌は旋律のある文学たり得ることを、一昨年のボブ・ディランさんのノーベル文学賞受賞は教える。だから、ユーミンこと松任谷由実さんが菊池寛賞に選ばれたのは、決して意外ではない

▼賞は文化活動を広く顕彰する目的だが、松任谷さんへの授賞理由は「高い音楽性と同時代の女性心理を巧みにすくい上げた歌詞」とある。まさに「旋律のある文学」であり、文学者の名を冠した賞にふさわしい

▼「モリオカというその響きがロシア語みたい」と歌う「緑の町に舞い降りて」は、1979年の作品。新幹線の開通前、恐らくプロペラ機で羽田空港を飛び立って花巻に降りた時の印象が、色彩を伴って伝わる

▼先月下旬の2日間、盛岡で行ったコンサートで最後を飾ったのもこの曲だ。全国14都市を巡るデビュー45周年記念ツアーの皮切り公演。「ここが最初でうれしい」と口にしたのは、リップサービスとも言えまい

▼松任谷さんが、大みそかのNHK紅白歌合戦にソロとして出場したのは、後にも先にも東日本大震災の年だけだ。その時に熱唱した「春よ、来い」は、自ら立ち上げた復興支援プロジェクトのテーマにした曲だ

▼元は連続ドラマの主題歌。盛岡公演で披露する際、松任谷さんは「最終的に、この曲はこれで幸せ」と言った。だから「緑の町」で真っ先に歌いたかったに違いない。