花巻市で打たれた囲碁女流本因坊戦第1局の大盤解説会は面白かった。一般棋戦は男女が同じ条件で戦う。女性だけの棋戦に、「差別」と目くじらを立てるのはヤボというものだろう

▼同棋戦を振り返ると、忘れられないのが一関市で開幕した1997年の第16期。吉田美香女流本因坊に知念かおり三段(当時)が挑戦した。アクシデントが起こったのは対局前日。観戦記では「でき死寸前事件」と紹介された

▼郊外の温泉に足を延ばした女流本因坊が、近くの磐井川を散策中に岩場で足を取られて転落。深みを15メートルほど流された。自力ではい上がったが「このまま人知れず死んでいくのかと思った」

▼ただ、転んでもただでは起きない。前夜祭でハプニングを紹介し「この時、雑念もすっかり流され、すっきりした。流れに逆らわず自分にできることを頑張りたい」とユーモアあふれるあいさつで会場を沸かせた

▼翌日の対局は敗れ、シリーズは3-1で知念三段が勝利した。新女流本因坊は、翌月に出産を控えていた。子どもを産んでからタイトルを奪取した棋士はいたが、妊娠中に大舞台に登場したのは初の出来事だったという

▼出産前に決着がつくよう日程を早めるなど関係者は奔走したようだ。昨今「女性が輝く社会」が声高に叫ばれている。囲碁界に学ぶことも多いのではないかと思う。