例年、10月は「村上春樹強化月間」。ノーベル文学賞受賞を心待ちに、作品を読みあさる。今年は違う。選考主体のスウェーデン・アカデミー関係者の性的暴行疑惑で、発表が見送られた

▼代わりにスウェーデンの文化人が文学賞を創設したが、最終候補に入った村上氏は「執筆に専念したい」と辞退。そこで、残る候補3人の作品の読書に専念することに

▼その1人、キム・チュイ氏はベトナム戦争中に生まれ、カナダに難民として受け入れられた女性作家。小説「小川」の主人公はある晩「ダーツ投げ」を目撃する。男たちが丸めてゴムで縛った百ドル札を矢に、体を震わせて裸で立つ少女たちを的にして

▼主人公は、ベトナムの歴史の重荷を背負わされた少女たちに「強さ」を感じる。札束が肌に当たった時の「聞き取れないほどの雑音」に耳をふさぐが「頭の中には、少女たちの毅然(きぜん)とした静けさが響いていた」

▼今年のノーベル平和賞には、イラク人女性ナディア・ムラド氏が選ばれた。過激派組織「イスラム国」に性奴隷として拘束され生還。性暴力根絶を訴える活動を続ける

▼勇気を奮って沈黙を破り、声を上げ始めた女性たち。強いられた女性たちの沈黙に光を当てる文学。きょう、新たに創設された文学賞の受賞者が発表される。ノーベル文学賞不在の意義も、重く受け止めたい。