初めて来日した米国人女性に「日本人は今も伝統的な家に住んでいるのか」と問われたことがある。西洋化した日本人の暮らしぶりに、室内で靴を脱ぐイメージが重ならなかったのだろう

▼幕末、鎖国政策が解かれると大勢の外国人が日本に渡来。土足で座敷に上がろうとするため、先々でトラブルが相次いだという。この時期の通訳兼外交官として名高い英国人アーネスト・サトウの体験談が残る

▼畳の上に渋紙を敷き詰めた部屋に通されたサトウは、ほこりよけのようだと憤慨。「日本の作法や習慣を知らず靴で畳に上がるだろうと考えての不愉快な予防策」と評した(「一外交官の見た明治維新」より)

▼そこで考え出されたのが、今に伝わるスリッパだ。東京の仕立職人が考案した当初は靴の上から履く方式。外国人の生活文化に配慮を示しつつ、それとなく日本の文化を押し通す老練な和洋折衷策と言えようか

▼一方で外国人の靴には興味津々。「ハイカラ」を気取る中には、サイズの合わない靴で足を血だらけにしながら「外国人さえ履くものを、日本の武士が履けないことがあるか」と意地を張る向きも多かったとか

▼どんなに靴が立派でも、サイズ違いはけがの元。どんなに立派な計画も、身の丈に合わなければ落ち着かない。膨張する五輪予算に注がれるのは、国民の「血税」だ。