新聞の役割について意見を交わす吉田沙保里選手や天野浩教授らパネリスト

 第22回NIE全国大会(日本新聞協会主催)は4日まで2日間、名古屋市の名古屋国際会議場で開かれ、NIE(教育に新聞を)に関わる全国の教育、新聞関係者ら約2300人が参加した。スローガンは「新聞を開く 世界をひらく」。ノーベル物理学賞を受賞した天野浩名古屋大教授が講演し、五輪3連覇のレスリング吉田沙保里選手らを交えた座談会も開催。愛知県内の小中高校による公開授業や分科会を通して、新聞を活用した学びについて理解を深めた。本県からは教員ら50人以上が参加し、来年7月26、27の両日、盛岡市を主会場に開かれる次回大会の充実を誓った。

 座談会は「頭の知識 体の知識」をテーマに、天野教授と至学館大(愛知県大府市)副学長でもある吉田選手、中日新聞社顧問・主筆の小出宣昭さん、県立時習館高3年鈴木杏奈さん、愛知教育大付属名古屋小5年津山克樹君の5人が登壇。大会実行委員長の土屋武志愛知教育大教授が進行役を務めた。

 中学時代から新聞記事の切り抜き作品に取り組む鈴木さんと、将棋の藤井聡太四段(名古屋大付属中3年)の記事を中心に新聞を読むという津山君が、天野教授ら3人に質問を投げかけながら意見交換した。

 津山君が「藤井四段の29連勝と天野教授のノーベル賞はどちらが素晴らしいと思うか」と記者顔負けの鋭い質問をすると、天野教授は答えに窮しながら「藤井四段は1人の努力の積み重ねだが、ノーベル賞は多くの研究者の努力の積み重ねの一部。どちらも価値がある」と語り、場内を沸かせた。

 吉田選手は新聞との関わりを「大会が終わると(自身の)記事が載っている複数の新聞を読む」と紹介。小出さんは新聞の良さについて「インターネットは興味があることを追跡するもの、新聞は開くと『こんなことがあるのか』と興味がないことを発見できる『寄り道の文化』が強み」と強調した。

 天野教授は「海外出張が多いため新聞はタブレット端末で読んでいる」と語り、ライフスタイルによって購読の形が変化している点を指摘。鈴木さんは「書き込んだり、スクラップして保存もできるので新聞は紙で読みたい。情報がすぐ入るネットの良さも組み合わせて使っていくとよいのではないか」と提起した。

 号外に光る若い感性・高校生記者が3号発行

高校生記者新聞「なごやホコホコNEWS」。期間中、計3号を発行した

 名古屋大会では、高校生スタッフの活躍が光った。会場誘導などサポート役だけでなく〝編集者〟としても活動。高校生記者新聞「なごやホコホコNEWS」を2日間の会期中、速報として計3号発行し、若い感性と新聞への愛着をアピールした。

 編集部は有志34人で結成。5月に中日新聞社の記者に記事の書き方や写真の撮り方を教わって活動をスタートさせた。

 1号は記念講演に登壇した名古屋大の天野浩教授のインタビューを掲載。2号以降は大会の内容を盛り込みながら、高校生編集部座談会など工夫を凝らした企画やデザインで、参加者の目を引いた。

 大会の進行に合わせて写真や記事を差し替える「版替え」も行う熱心な仕事ぶり。同社が所有し、印刷機2台を搭載した新聞製作・広報車「ドラゴン号」で即座に印刷し、刷り上がると「号外です」と誇らしげな声を響かせて来場者に手渡した。

 名古屋大付属高2年畑山亘(わたる)さんは「報道関係に興味があり、現場を知りたいと参加した。活動は楽しい」、新川高3年青木咲弥佳(さやか)さんは「新聞をより身近に感じることができた。NIEのことを友達にも広げていきたい」と目を輝かせた。

【写真㊧=新聞の役割について意見を交わす吉田沙保里選手や天野浩教授らパネリスト】

【写真㊨=高校生記者新聞「なごやホコホコNEWS」。期間中、計3号を発行した】


 公開授業 地域防災に理解深める

 名古屋大会では「NIEで広がる言葉の力」「新聞を通して、自己のキャリアプランを考える」などさまざまなタイトルで教育への新聞活用に関する9件の公開授業と10件の実践発表が展開された。

 名古屋市の小幡小(中村美穂校長、児童664人)の4年3組34人は地域防災に理解を深める社会科の授業を行った。児童は「防災への関心」や「消防団員の減少」など事前に新聞記事を通じて知った課題ごとに6班に分かれ、検討した解決策を発表した。

 区職員や消防団員らが改善点などを助言。地震への関心を高める取り組みを考えた種村名菜さんは「地震が起きたときのために準備しておこうねと呼び掛けたい」と意欲的だった。

 教壇に立った余合弘教諭は授業後、参観した教員らを前に「地震に強い社会について考えるきっかけになり、これからも考え続けようとする児童の姿勢が見られた」と自己採点した。

 岩手大付属小(盛岡市)の関戸裕教諭は「来年の盛岡大会でも社会の問題や参画について考えるためのツールとして新聞を生かして取り組みたい」と刺激を受けた様子だった。

 カリキュラム 課題解決の力を育成

 学習指導要領の改定を受け、NIEのカリキュラムにどう組みこんでいくかが話し合われた特別分科会では、文部科学省教科調査官の樋口雅夫さんが、次期学習指導要領について解説した。

 樋口さんは、次期学習指導要領が目指すところを「子どもたちが主体的に判断しながら、自分を社会の中でどのように位置付けて社会をどう描くかを考え、課題を解決していくための力の育成」だと説明した。

 それを実現するために「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点から、学習過程の質的な改善が必要だとし、その中で、社会の複雑な課題やさまざまな対立する意見を分かりやすく解説する新聞を活用することが期待されていると話した。

 実践例として、愛知教育大付属名古屋小の伊藤昭良教諭が、身近なごみ問題について考えさせた4年生の社会科授業の様子を紹介した。

 ごみ問題に、食べられるのに捨てられる食品ロスの問題が深く関わっていることを気付かせるため、新聞記事を活用。子どもたちはそれを読んだ上で、家庭で聞き取り調査をしたり、市の担当者から話を聞いたりして、食品ロスが減るとごみの量も減ることを理解したという。

 伊藤教諭は、新聞記事を活用することで説得力のある自分の考えを導いたり、正確な情報を基にした考えを共有したりすることができたと分析し「価値判断をする際、根拠のある考えを持つために新聞記事を用いることは有効だった」と話した。

 天野教授 講演要旨 新聞記事は研究の羅針盤 日本や世界を映し出す鏡

 私は新聞のスポーツ欄やテレビ欄は見る小学生でした。中学生の時は受験勉強に入り込めず、勉強を強制されるのが苦痛でした。高校生になって先生に数学の楽しさを教えてもらい、少し未来が見えてきました。大学1年生の時に「工学とは人と人とを結ぶ学問」と教わり、勉強は人の役に立つことだと心の底から理解できて、未来が広がりました。その時に青色発光ダイオード(LED)と出合いました。

 大学では装置を手作りして実験を繰り返し、難しくて成功しなくても、楽しくて仕方なかった。教えられて知識を頭に詰め込むのではなく、自分で考え工夫し、成功すれば絶対に世の中が変わると思っていたから続けることができました。特別な才能はなくても、一心不乱にやれば人の役に立つと実感しました。大切なのは気持ちと熱中力。

 研究者にとって、新聞記事は研究の羅針盤です。例えば、気温上昇の予測や化石燃料についての記事を読み、そういうことをベースに、どうやって解決しなければいけないかを考えます。これからも感動をもたらす研究開発をやっていきたい。

 若い皆さんには、未来の世界は自分たちでつくるんだと考えてほしい。新聞記事は現在の日本や世界を映し出す鏡。記事をより良い世界をつくるための素材として使えば、明るい未来が待っていると思います。

 本県参加者の一言 

 学校ぐるみの体制に

  千厩高教諭 石井美樹子さん(50)

 生徒が自身のキャリアプランを考える中で、過去と現在の新聞記事を読み比べ、未来を予測していた。インタビューやプレゼンテーションなどさまざまな要素が盛り込まれており、新聞活用の仕方、学習の手法は大変参考になった。論理的思考力や課題解決能力を育む上でもNIEは効果的。学校ぐるみで取り組めるように内容、体制を整えたい。

 表現力向上に役立つ

  岩泉小教諭 野月 一隼さん(36)

 年間カリキュラムの中にNIEを位置付けている学校があり「いつでも、誰でも、どこでも」取り組める仕組みが印象的だった。新聞作りの授業では、子どもたちは記事に書いたこと以上に説明・発表できる能力も身に付けていた。書く力、話す力などの表現力を高める上でNIEは役立つと感じており、本校の実践に知恵を絞ろうと思う。

 意欲引き出す活用を

  岩手大付属中教諭 中村 正成さん(37)

 新聞を活用し、論理的な表現を身に付ける授業を見た。書きたい気持ちを喚起し、社会とのつながりを意識するためにも新聞への投書は魅力的な活動だ。本校でも投書や新聞作りなどに積極的に取り組んでおり、何のために書くのか、原点に立ち返る大切さを感じた。来年の盛岡大会では教科横断的な授業の展開を目指し、進めていきたい。

 参考になる手法多く

  久慈東高教諭 原田 智生さん(39)

 名古屋大会に参加し、NIEが読み書きや対話など幅広い力を伸ばすと実感した。文章を読み概略を説明するペア・リテリングなど参考になる手法も多く、久慈地域の課題解決に主体的に関わる生徒を育てる取り組みにつなげたい。新聞の教材化にあたってはテーマを絞ることが大事。継続的に取り組める仕組みが必要と感じた。