全国各地で展開されている教育に新聞を活用した取り組み。先駆的な授業や工夫を凝らした特別活動で、児童生徒は新しい風に乗り「主体的・対話的で深い学び」を身に付けている。NIE実践校を訪れ先進事例を紹介する。初回は東京都の武蔵村山市立小中一貫校大南学園第七小学校(小野江隆校長、児童594人)。「生命の尊厳」をテーマにした道徳の授業に児童の目が輝いた。

 新聞の切り抜きやコメントを添えたスクラップ記事が並ぶ廊下を歩き、5年3組の教室に入ると毎日行われている新聞記事のスピーチが始まった。

クローンで愛犬をよみがえらせることについて書かれた10年前と現在の記事を読み解き、意見を発表する5年3組の児童

 表に新聞記事、裏に記事を選んだ理由、要約、感想を書いた色画用紙を手に、児童10人ほどが発表。同じ記事でも内容が違う。担任の市川こずえ主幹教諭は「スピーチは今春からだが、みんな意欲的」と目を細めた。

 続く1時間目は小野江校長の道徳。「愛犬のクローン、3億円でつくって」、「1千万円で愛犬『復活』韓国研究所の〝クローンビジネス〟」の二つの記事の抜粋が張り出された。

 「一つは10年前、一つは最近の記事。どっちが新しい」と小野江校長。児童は読み比べてキーワードを探した。クローンの完成の有無や価格などを読み解き発言。記事の新旧が分かった後で、小野江校長が簡単に解説し、「じゃ、10年後の記事とタイトルを書いてみよう」と投げかけた。

 「人々は本物の方がかわいいので犬のクローンは全滅」「人間のクローンもできるようになった」などさまざま。次に「20万円でつくれれば、君ならどうする」とクローンの是非を問う質問に移った。

 はじめは思案顔だった児童だが、次第に手を挙げ始めた。「思い出があるからほしい」という声の一方「未来に影響が大きいと思う」との意見も。最後に立った男児は「別れも大切だ」。

 この発言を受け小野江校長は10年前の記事への投書を読み上げた。愛犬を失った女性の「心揺れ動いた愛犬クローン」と題する文章は「同じ遺伝子の犬ができても同じ環境は二度とつくれない」と、悲しみから一瞬でもクローンを欲した自身を戒めるもの。

 小野江校長は「生命の尊厳の根源に迫る深い学びになった」と振り返った。

 「理由そえ話す」を重視

気になる新聞記事を切り抜き、要約や感想を書き込んだ画用紙を掲げる4年2組の児童

 1973年開校の第七小は2016年、第四中と隣接型小中一貫校となり大南七小として新たな歴史がスタートした。「わけ(理由)をそえて話すことができる子ども」が目標で、5年目のNIE活動でも一貫している。

 3~6年は、授業のほか記事を探し考え書く「記事取材」やスピーチを取り入れ、低学年については記事の校内掲示などで新聞に触れる環境を整えている。

 4年2組の教室では、新聞から記事を選び発表する授業。担当の加納直樹副校長の掛け声で児童は手際よくページをめくり10分ほどで記事を切り抜き、選んだ理由、分かったこと、感じたことを書き添え発表した。

 NIE導入当初から携わる市川こずえ主幹教諭はスピーチについて「はじめから、新聞から選ぶのは難しい。教師が記事を選択して校内に掲示し、そこから選べるようにもしている」とNIE浸透への工夫を語る。


  小野江 隆校長に聞く  新聞で「主体的・対話的で深い学び」

 今回の授業の狙いや新聞を教育に活用する利点を小野江隆校長に聞いた。

 (聞き手・読者センター 礒崎真澄)

 ―今回の授業の狙いは。

 「生命の尊厳がテーマ。10年前の記事は、その時の授業で使ったもので『100万円だったらどうする』と問いかけた。今回は10年間の経緯を踏まえた未来の予測。過去、現在、未来をつなぎ、生命の尊厳の是非を問うきっかけになった」

 「子どもは『未来を担う』とか『未来を生きる』といわれるが、未来が想定できなければ生きることも担うこともできない。過去、現在を読み解く点に深い学びがあり生きて働く未来がある」

 ―主体的・対話的で深い学びとなったようだ。

 「そこは意識していた。子どもたちは主体的に課題に向き合い、対話を通じ対極的な考えに寄り添い、自分の考えを深めたと思う。最後の子の発言は小学5年生とは思えないものだ。自分の生活や経験、生き方に照らし、自分として自分自身に、社会に、生き方にどう働き掛けるか突き詰めたとき、学びは深まる。行き先不透明な未来をどう生きるか。正面から向き合い自分と対話(自己内対話)することで、未来に働きかける資質・能力が備わる」

 ―主体的・対話的で深い学びに新聞は有効か。

 「現象と向き合う経験が深い学びに結び付く。新聞は空間、時間的な広さが一度に目に入り、子どもたちは目の前だけでは見つけられないものを見る。多角的視点で社会を見る社会的視点取得能力が養われ、複眼的な思考、比較の中から自分の意見を持つクリティカル(批判的)な力、グローバルな視野がつく」

 ―教材としてはどうか。

 「新聞には『使えるぞ』というものがちりばめられている。教材化する力は教師に問われている。例えば環境については理科、社会、国語など横断的な取り組みが可能。国語では討論、意見文、取材―などで使える。読み解く、比べる、情報を集める、比較し自分の意見を持つことは言語能力向上にも資する。難しい漢字はあるが、文脈、全体像から推測し読み解く力は大切。本校では毎日、子どもたちが行っており可能だ」