日本NIE学会(会長・阪根健二鳴門教育大大学院教授=学校教育学)の第14回宇治大会は11月25、26の両日、京都府宇治市の京都文教大で開かれ、「地域連携とNIEの可能性~『社会に開かれた教育課程』を見据えて」をテーマに活発な議論が展開された。注目される発表を振り返る。

(右から)「違う意見に耳を傾けることで深い学びになる」と話す尾高泉さん、「各世代をつなぐ共通テキストが新聞」と説明する越地真一郎さん、「新聞を使い学ぶことが主権者教育につながる」と話す畑光一さん、「新聞を読むことは、社会を学ぶこと」と強調する宮沢之祐さん

 「地域と結ぶNIEの可能性」と題した1日目のシンポジウムは柳沢伸司・立命館大教授をコーディネーターに行われ、熊本日日新聞NIE専門委員の越地(こえじ)真一郎さん、信濃毎日新聞読者センターNIE専門委員の畑光一さん、京都府向日市・寺戸中教諭で元神戸新聞記者の宮沢之祐(しゆう)さん、日本新聞博物館長の尾高泉さんが実践発表を交え討論。

 宮沢さんは、前任の長岡京市・長岡中3年社会科・公民分野の授業で予算案を報じる記事を教材化した。「地方自治と私たち」の単元4時間で、市の予算案発表記事、特色ある施策を紹介する解説記事、市議会予算委員会、本会議の議会記事や近隣自治体の住民投票の記事を扱った。

 生徒は予算案や解説記事で自分たちの住んでいる自治体の特徴ある施策を理解すると同時に課題を知り、議会記事を追い予算成立までの流れを学ぶ。その後、政治の学習のまとめとして3時間加え、市選管と協力し模擬投票に取り組んだ。グループに分かれ公約を考え、グループ代表の生徒が市長選に立候補することを仮定した模擬投票を実施。各自の推す候補の選挙公報作りを評価した。

 「地元を好きになることが災害に強いまちづくりにつながる」が持論の宮沢さんは「地方自治を扱う際、地元市町村の予算は必須の知識だが教科書には載っていない。全国の事例など教科書では遠くの出来事を新聞は『わがまちの課題』として具体策を示し近くに引きつけてくれる」と指摘。

 第三者(記者)の視点で分析し批評した新聞記事の価値を強調し「予算案を伝える記事は地域課題を考えるとき一番の基礎資料。わがまちの課題を知り意見を持ち、解決への行動につなげたい」と力を込めた。

 畑さんは年間400回以上行う学習指導要領を踏まえた出前授業を紹介。越地さんは大学などで行う「新聞カフェ」について説明した。尾高さんは「デジタル情報は、耳に心地よいものに偏っている。異なる意見に耳を傾け理解しようとしたときに深い学びとなる。その土俵に、子らを戻さなければならない」と締めくくった。

 シンポジウム後、「地域連携とNIE」、「主権者教育とNIE」の2研究分科会が開かれ、学校と地域が連携した新聞活用、新聞作りについて実践発表と意見交換が行われた。

 災害報道を理科、算数に

小学6年の理科で実践したNIEの防災授業について報告する田沼正一さん

 2日目は20を超える個人・グループが自由研究を発表。群馬県伊勢崎市の境剛志(さかいごうし)小教諭の田沼正一さんは「防災意識を育む新聞活用授業~小学校理科学習の取り組みを通して」と題し実践を紹介した。

 田沼さんは2016年、6年理科の単元「変わり続ける大地~私たちのくらしと災害」4時間で新聞を活用。岩泉町の台風10号被害や熊本県の阿蘇山噴火、鳥取地震などを取り上げ、日本赤十字社の防災教材と合わせて授業を展開した。

 6~7歳で東日本大震災を経験している児童は、計画停電やガソリン・食料品不足、放射線被害防止対策が記憶に残る。田沼さんは、自然災害が身近な問題であるという認識が必要で、児童の防災意識育成が喫緊の課題と考えた。

 1時間目に自然災害の記事で大地の変化を学習。2時間目に地震や火山噴火を調べ、3時間目に災害への備えを考えた。4時間目は命を守る話し合い。日常生活上の防災を共有した。

 田沼さんは「児童の心理に配慮する必要があるが、話さなくてはならない。災害報道は、理科に限らず算数でも利用でき、年次計画に位置づけ継続的な積み上げが大切だ」と力説した。


 阪根健二会長に聞く 対話生み出す新聞の力

 日本NIE学会の阪根健二会長にNIEの可能性や課題を聞いた。

 (聞き手 読者センター・礒崎真澄)

「新聞には対話を生み出す力がある」と話す阪根健二会長

 -宇治大会は「地域連携とNIE」をテーマにした。

 「新学習指導要領に向け動いている時期。NIEの在り方を見つめ直し地域とNIEの活動が結び付く可能性を探りたかった。指導要領の一つの柱に『社会に開かれた教育課程』の実現がある。NIEは学校に限らず社会全体が関わっている。社会・世界の理解や、より良い社会をつくり出す目標の共有、人生を切り開く資質・能力の育成は、新聞社の資源の活用による学校と社会の連携でうまく機能するだろう」

 -課題と可能性は。

 「多忙な学校現場でNIEをどう組み込むか-が課題だが、新聞を教材に各教科をつなぐカリキュラムマネジメントを薦めたい。新聞は情報活用能力の向上や主権者教育、自然災害・復興への歩みを次の社会にどう生かすかを考える上で有効だ。また、新聞には『対話を生み出す力』がある。記事の向こうにいる人と巡り合い、考えの違う人と語り合う素材として最適。遡及(そきゅう)性があり、じっくり考えることができる」

 -NIE全国大会を来年に控える岩手に期待することは。

 「県民一体で東日本大震災の復興に立ち向かってきた。新聞を人と人をつなぐツールにしてほしい。それこそがNIEの真骨頂だ」