生徒たちが英字新聞を広げる。「こんなの読めない」との声も上がるが、皆、楽しそうにページをめくった。

 東京都の世田谷区立尾山台中(野口潔人校長、生徒322人)2年生の英語の授業。「because(ビコーズ、なぜなら)」の学習で英字新聞が使われた。

 興味を持った記事について、隣の席のクラスメートと英会話。「何の記事を選びましたか」「この記事を選びました」「なぜ、それを選んだのですか」「なぜなら○○○○○に興味があるからです」「何が書いてありますか」「○○○○○と書いてあります」

英字新聞を楽しそうに広げ、友達と英会話をする記事を探す東京・尾山台中の2年生

 ワークシートに沿って進む授業。「英語の新聞は初めて」という生徒もおり、興味津々だ。記事を選び、英語で伝え合い、友人の興味のあることや記事の内容を聞き取り、書き留めた。

 横田蓮さんは「難しいかなと思ったけれど、紙面には意外と知っている単語が載っていた。少し英語ができれば読めると思った」と充実した笑顔をみせた。

 「見出しや写真説明など簡潔に表現されている」と指導に当たった菅原和義教諭は説明。「まず、子どもたちに、手にしてほしかった。写真や習った単語を頼りにすれば、読めるところがあることを感じてほしかった」と狙いを語る。

英字新聞を使った英語の授業のワークシート

 同校は英語に限らず国語や社会でも新聞を活用。この日は、世田谷区が内閣府から教育特区の認定を受けている教科「日本語」の「表現」の授業で、2年生がスクラップに取り組んだ。

 これまで「食」と「健康」に関する記事を切り抜いて貼り、要約してきた台紙に、感想や意見を書き込んだ。白坂絢美(あやみ)さんは「新聞は絵や写真があって分かりやすく内容も詳しい」とシュガーアートの記事について考察を深めていた。

 授業はカリキュラムマネジメントによる家庭科とのコラボレーション。食と健康を考えながら、文章を読み、自分の言葉で表現することを目指した。

 担当の石渡由美教諭は「新聞は教科書に比べ最新情報が掲載され、感性の鋭い子どもたちの関心を引きやすい。スクラップは家庭科で使いたい」とし生徒を見守った。

 閲覧台7台設置、読む環境を整備

各階に設置された閲覧台で、昼休みに新聞を読む生徒

 東京都世田谷区南東部に位置する尾山台中は1950年開校。NIEの取り組みが盛んで実践指定校は今年、3年目になる。

 新聞閲覧台を職員室と教室のある各階、図書室前に計7台設置し、新聞は日本新聞協会の提供事業のほか学校予算約12万円を充て購入。生徒が一年を通して、手に取り読める環境を整えている。

 図書館前には、読み方を解説する「新聞記事のミカタ(見方)」を掲示。見出しや前文、本文、写真説明などを説明し、新聞への関心を高める配慮を欠かさない。

 閲覧台を3台から7台に増設した昨年、生徒対象に行ったアンケートでは「学校に設置している新聞を読んだことがある」は約85%、「読む回数が増えた」が約50%に上った。野口校長は「イベント的な取り組みよりも、生徒が日常的に手に取れる環境づくりが大切」と強調する。

 世田谷区も教育への新聞活用を積極的に推進。義務教育9年間を一体的に捉える「世田谷9年教育」では、中学2年生を対象に朝学習で新聞社説の要約を取り入れている。

 情報を読み取り、考えを表現する力を高める目的で週1回、年間35回実施。ワークシートの作成、添削は区の教育委員会が行い、学級担任らに負担がかからない仕組みだ。学校、地域ぐるみの実践が注目されている。


 野口潔人校長に聞く 自立した大人へ新聞有効

 新聞活用を積極的に進める尾山台中の野口潔人校長に子どもたちが新聞に触れる意義を聞いた。

(聞き手・読者センター 礒崎真澄)

 -新聞を積極的に取り入れている。

 「常時ではないが、各教科のポイントで教師が教材化している。新聞は使い勝手が良く、今だったら、国会、解散、政党政治など、使おうと思えばいくらでも使える。米国で起きた銃乱射事件にしても、海の向こうの話ではなく銃規制の在り方など少しずつ考えることが中学生には必要だ。ただ、授業でタイムリーに使うためには、1面や社会面、見出しだけでも毎日追う必要がある。押しつけはダメ。強制はしていない。20年ほど前、私が社会科を教えていた時は、毎時間、授業の冒頭、『私はニュースキャスター』という5~10分間のコーナーを設け生徒に発表させていた」

 -地域ぐるみで推進しているようだが。

 「2014年度から3年間、世田谷区立中学校教育研究会・新聞教育研究部会の部長を務め、29校・約690人を対象にアンケート(回収率67・5%)を行った。その中で『新聞教育に興味・意識がある』教員は70%、『新聞づくり・活用をしようと思う』は79%だった。一方で『作業に時間がかかる』『ノウハウが分からない』などの意見が多く寄せられた。部会では14、16年度に冊子『新聞づくり・新聞活用 KNOW・HOW ブック~日々の授業に新聞を』を作成し、新聞活用や新聞作りの方法を紹介した」

 -新聞活用で期待することは。

 「新聞は紙面全体を鳥瞰(ちょうかん)できるところがいい。情報をパパパと見ることのできるような大人に育てることが大切だ」

 「教師の究極の目標は、子どもたちを自立した大人に育てること。そのためにはクリティカルシンキング、クリエーティブシンキングが大切。人の意見を丁寧に聞き、世の中を知ることを小中学生のうちに身に付けさせたい。そのためにも思いがけないものに出合える新聞は有効だ」