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平泉・世界遺産審査迫る

 「平泉の文化遺産」の世界遺産登録の可否が決まる国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会の開幕が7月2日に迫った。国際記念物遺跡会議(イコモス)の「登録延期」勧告後、現地は岩手・宮城内陸地震にも見舞われたが、地元関係者は復興、そして世界遺産登録へ、願いを一つに結束を強めている。大詰めを迎えた「逆転登録」への取り組みを追う。


逆転戦略 世界との交流強調 2008年6月29日

 「イコモスの勧告を見て、『東西交流』みたいなものを強調した方がいいと思った」

 文化庁がユネスコ世界遺産委員国に対する説明資料を公表した27日夜。委員国への働き掛けで先頭に立つユネスコ日本政府代表部の近藤誠一特命全権大使は岩手日報社の取材に対し、説明のポイントの一つをこう語った。

 イコモスの勧告で「登録延期」を受けた「平泉の文化遺産」。平泉文化の根幹をなす「浄土思想」は分かりにくいと指摘され、文化庁、県教委などの関係者は「目に見えない精神性」をどう補足説明するか苦悩を深めた。

 文化の異なる国の委員に理解を得るには何が必要か。関係者は6月中旬渡仏し、近藤大使と対応を協議。その「逆転戦略」の一つが、今回の説明資料にあるマルコ・ポーロが「東方見聞録」に記した「黄金の島ジパング」のくだりに見て取れる。

 「平泉の主要な寺院には中国や東南アジアから伝わった文物も多数存在し、豊富な産金地であった奥州は、マルコ・ポーロが『東方見聞録』で『黄金の島ジパング』と記したきっかけになり、大航海時代の遠因となったと考えられている」

 こうした内容は、ユネスコに2006年12月に提出した推薦書にも盛り込まれてはいたが、委員の「心の琴線」に触れるよう、世界史上の意義付けを一層鮮明にした。

 一方、「平泉文化」の中心となる浄土思想は、「平和希求」「万物共生」「自然との融合」の3点に凝縮。「ユネスコ憲章の精神に通じる」と新たな記述も加えた。目に見えない精神性は簡潔にし、目に見える中尊寺金色堂などの建造物は世界とのかかわりをアピールする―。

 ユネスコへの推薦書作成委員長を務めた工藤雅樹県文化財保護審議会会長は「ユネスコの精神と奥州藤原氏の精神が時空を超えて通じているとの訴えは非常に新鮮。学者的な考えの及ばないところまで行き届いている」と高く評価する。

【写真=「平泉の文化遺産」を象徴する中尊寺の金色堂。世界遺産登録へ世界的意義をアピールする=平泉町】




地元の熱意 届け官民の「祈り」 2008年6月30日

 国際記念物遺跡会議(イコモス)の登録延期勧告の約1カ月後。「平泉の文化遺産」のコアゾーン(核心地域)の一つ、平泉町の中尊寺で21日、町民による世界遺産登録を請願する参拝の会が開かれた。

 金色堂前には約600人が集まり記念撮影した後、祈りをささげた。世界遺産登録を願う一人一人の顔が写った写真は、カナダ・ケベック市で7月2日から開かれる世界遺産委員会に出向く町職員に託される。

 「勧告結果は残念だったけれど、そのおかげで町民が集まり、金色堂で祈ることができた。地元にいると、なかなか参拝に行く機会はないからね。まずは盛り上がってよかった」と参拝の会の佐藤長伸代表(43)は振り返る。

 奥州市は20日、世界遺産委員会委員国のオーストラリアにある姉妹都市、グレーターシェパートン市の市長へ、登録への協力を呼び掛ける手紙を送った。

 市世界遺産登録推進室の小野寺正幸室長は「正直、一市の市長への協力要請がどのくらいの効果があるかは分からない。ただ、できることは何でもしようと、国や県と相談しながら文面を考えて英訳し送った」と語る。

 一関市の骨寺村荘園遺跡は、14日の岩手・宮城内陸地震で山王窟周辺や駒形根神社の一部が破損するなどの被害があり、関係機関が全力を挙げて復旧に取り組む。

 中世の荘園風景を守り、営農を支える全国の「荘園オーナー」からも励ましの声が届いており、地元住民は、復興への気持ちを強くしている。

 「『世界遺産にふさわしい街にしよう』という地元の熱意と願いは登録への大事な要素で、その点では平泉は満点だ。この動きを大切にしてほしい」

 3月に「平泉の世界遺産」を視察したユネスコ日本政府代表部の近藤誠一特命全権大使は、こう語った。

 国や県とともにカナダへ派遣される地元3市町の職員は、住民や応援する人々の熱意を受け止め、世界遺産委員会へと向かう。

【写真=世界遺産登録を願い中尊寺金色堂に祈りをささげる平泉町民。参加した約600人を写した写真は、カナダに行く町職員に託される=21日】




手作り「戦力」 巻き返しへ好感触 2008年7月1日

 国際記念物遺跡会議(イコモス)の「登録延期」勧告から1カ月余。「実は(世界遺産委員会委員国への働き掛けは)イコモスの勧告前からやっていた。平泉は浄土思想とか、説明するのに時間がかかるだろうと思って」

 登録への鍵を握る中心人物、国連教育科学文化機関(ユネスコ)日本政府代表部の近藤誠一特命全権大使は先週、3巡目の働き掛けを終えた後、こう明かした。

 昨年、石見銀山遺跡(島根県)を逆転登録に導いた経験から、平泉を説明するキーワードを「平和思想」「自然との共生」「東西交流」に絞り込んだ。

 さらに委員国への働き掛けで「貴重な戦力」になっているのが、平泉の9つの構成資産を表す「模型」と県南広域振興局職員が手作りした英語版「紙芝居」だ。

 模型は「現地を見ていない人にも分かりやすいように」と大使が発案。紙芝居は、イコモス勧告後に平泉を訪れた外務省広報文化交流部の山本忠通部長の目に触れ、近藤大使に助言があった。

 平泉の精神を凝縮した紙芝居「みんな なかよし ひらいずみ」は、戦乱で家族を失った藤原清衡公を主人公に敵味方や身分を問わず、仲良く暮らしたい―と平泉のまちをつくる物語。近藤大使は「委員国の大使からは反響がある」と巻き返しに向け、好感触を得ている様子だ。

 達増知事ら県幹部も委員国の在日公館に協力を要請。21カ国のうち17カ国を訪問し、地元の思いを伝えた。外務省は委員国の駐在大使を通じて各国政府に働き掛けるなど、二重、三重の態勢を敷く。

 ユネスコ世界遺産委員会は2日、いよいよ開幕する。近藤大使らと出席する県教委の中村英俊文化財・世界遺産担当課長は「地元市町と連携し、審査当日まで大使のバックアップに努めたい」と気を引き締める。

(報道部・及川亜希子、阿部友衣子)

【写真=県南広域振興局職員が作製した紙芝居「みんな なかよし ひらいずみ」。世界遺産委員会委員国からも好評を得ている】


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