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 「平泉の文化遺産」の世界遺産登録を審議する国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は、カナダ・ケベックで7月2―10日の日程で開催される。登録には委員国21カ国の協力と理解が鍵を握る。委員国の中国、ペルー、オーストラリア、エジプトの県内在住者に「平泉」の魅力と世界遺産登録に向けたエールをもらった。


@平和希求に高い価値 中国出身 申龍均さん(盛岡在住) 2008年 6月27日

 留学生や研修生向けの日本語教育や中国語通訳を務める盛岡市上田2丁目の会社員申龍均(しんりゅうきん)さん(45)=中国吉林省出身。約10年前から通訳などで平泉にかかわり、世界遺産登録を強く願う一人だ。

 「文物や歴史の長さでは中国の方が上だが、中国の多くの遺跡は外壁のある守りの文化。言い換えると戦争の歴史。平泉の藤原氏はあまたの戦いを経て、平和の大切さを感じたからこそ城を造らず、仏教で国を治めた。平和を強く求めた平泉は必ず世界遺産の価値がある」と力説する。

 申さんは岩手大大学院を卒業した1998年、平泉町が中国・浙江省天台県と交流した際に手紙の翻訳や通訳を担当。以来、平泉を訪れるたびに、関係者から歴史や思想を学び、文化の奥深さにひかれた。

 それだけに、国際記念物遺跡会議(イコモス)勧告について、「正直がっかりした。もっと他国の人にも素晴らしさを知ってもらわなければ」と語る。

 暫定リスト登載前に、中国の文化担当大臣が平泉を訪れた際に通訳を担当し、毛越寺の庭園について「中国に古くから伝わる易学の視点を反映している」と説明し、大臣の共感を得た。

 申さんは6月、日本国籍を取得した。「浄土思想を山や木など自然の具体的なもので分かりやすく表現したのが毛越寺―など、ポイントを絞って紹介することが大切」とガイドのこつを語る。

 「われわれにも地域に住んでいる文化の素晴らしさを伝えていく責任がある」と世界遺産登録を信じる。

【写真=「必ず登録を信じている」と熱っぽく語る申龍均さん】

大使へのメッセージ 中国は応援してくれると確信している。ほかの国にも平泉の素晴らしさを広めてほしい。

A伝える心 母国と共通 ペルー出身 在原エリザベスさん(盛岡在住) 2008年 6月28日

 「黄金の国ジパングを目指したスペイン人がたどり着いたのが南米のインカ帝国だったという話を聞いた。ペルーも平泉とつながりがあると考えると面白い」。ペルー出身のスペイン語講師在原エリザベスさん(50)=盛岡市東桜山=は平泉を身近に感じている。

 歴史や文化が好きで、ペルーでは観光ガイドを務めていた。近く中尊寺金色堂などを訪れる予定だ。平泉の観光案内や本を見るたびに「貝殻の装飾など繊細な細工がすごい」と感心する。

 自身はカトリック信者。キリストの教えを信じ、守り伝えている。「カトリックでもイスラムでも何かを信じることは同じ。忘れてはいけないものはそれぞれある。平和を求めた平泉も大切に伝えていかなければならない」と語る。

 ペルーにはマチュピチュの歴史保護区やインカ帝国の都のクスコ市街、ナスカの地上絵など10カ所の世界遺産がある。在原さんのお気に入りはマチュピチュ。「天に昇ったような不思議な気持ちになる」と遺産の魅力を語る。

 世界遺産のほかにも、古い遺跡が多い。「インカ帝国の前にもたくさんの文明があって、その中には貴重なものがあり、忘れてはいけない。すべて誇り」と語る。

 結婚を機に1989年に来日。岩手に住み間もなく20年。母国にはない緑の多さに感激。一方、今でもそばをすする音には驚嘆し、冬の寒さは身に染みる。文化や習慣は異なるが、「心は岩手の人と一緒」と世界遺産登録を願う。

【写真=「遺産を次の世代につなげてほしい」と願う在原エリザベスさん】

大使へのメッセージ 岩手の人は親切。言葉は通じなくても心は通じる。平泉は素晴らしい。訪れたら必ず感じる。

B平等、平和の思想普遍 豪州出身 ケネディ・トニーさん(盛岡在住) 2008年 6月30日

 盛岡市小鳥沢1丁目のケネディ・トニーさんは、オーストラリア南東部の都市メルボルンから日本に移り住んで11年。2003年に来県し、現在は岩手大と県立大、盛岡大で英語講師を務めている。

 これまでに5回ほど平泉町を観光し、「春の藤原まつりやあやめまつりなどとても興味深かった」。最後に訪れたのは3、4年前だが「英語の標識が少なく、寺などの建造物の違いを説明するガイドがいればいいと感じた」と当時の印象を語る。

 オーストラリアには自然遺産を中心に17の世界遺産がある。「登録後に旅行客が増え、ホテルや水道ができれば自然や景観が壊れることもある。未来の子どもたちに遺産を引き継ぐためにも、単なる観光地にしてはいけない」と強調する。

 「食べ物や水など生きる上で必要なものを土から得るという考えから、自然を大切にする文化がある」と自国の伝統的な思想を紹介。人と自然が共生する「平泉」との共通点を挙げる。

 ヨーロッパ人が先住民族アボリジニの地に入植した歴史を持つオーストラリア。「だんだん仲が深まってきたが、まだ差別意識が残っている。平等や平和を求める浄土思想は、キリスト教徒が多いオーストラリア人にも伝わると思う」

 「外国人にとって、京都や奈良と平泉との違いを理解するのは難しい」と指摘する一方、「平泉の文化は、長い間守られてきた歴史と価値がある。登録されるよう願っている」と地元の取り組みに期待する。

【写真=「世界遺産登録後も、環境や景観を守る取り組みを続けることが大切ではないか」と提案するケネディ・トニーさん】

大使へのメッセージ 平泉には800年以上の歴史がある。それを守ってきたことを大事にし、世界遺産に登録してほしい。

C宗教超える平和の心 エジプト出身 ハイサム・ザキさん(盛岡在住) 2008年 7月1日

 岩手大連合農学研究科のエジプト人留学生ハイサム・ザキさん(27)は、2006年秋に来日した。まだ平泉に足を運んだことはないが、今回の世界遺産登録を目指す動きを目の当たりにして、異文化に興味を持ち始めている。

 「エジプトも日本も古くからの歴史がある国。それが文化にも反映されており、共通する部分が多いように感じる。エジプト人に対しても歴史の重みを絡めて説明すれば、平泉の価値を理解してもらえるのではないか」と推測する。

 母国エジプトには世界的に有名なピラミッドを含む7件の世界遺産がある。中でもルクソール神殿などがある古代都市テーベの遺跡はお気に入りの場所。

 「遺跡を見ると心が落ち着いて、またこの場所に戻りたいと思わせる雰囲気がある」と強調。悠久の時を超えて現代に続く平泉の文化にも通じる部分がありそうだ。

 雄大なナイル川がエジプトの文化に大きな影響を及ぼしたように、平泉の黄金文化は北上川によってはぐくまれた。「ナイル川はエジプト人にとって生命であり、生活そのもの。文化は川から発展する」。両国の気候や宗教は異なるが、自然と共存する背景を重ね合わせる。

 「平和を大切にする気持ちはイスラム教の人も同じ。平泉は岩手、日本だけでなく、世界中の人が守っていかなければならない」。世界遺産発祥の地ともいえるエジプトの人々も平泉の世界遺産登録を願っている。

 (終わり

 (平泉文化世界遺産登録取材班)

【写真=「岩手県の皆さんは素晴らしい平泉文化を誇りに思うべき」と主張するハイサム・ザキさん】

大使へのメッセージ 歴史があるエジプト、日本の両国が協力し、平泉の遺産を世界中の次世代の人に伝えてほしい。


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