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「共謀罪」施行 監視されるべきは権力


 先の東京都議選の最終盤、街頭に立った安倍晋三首相に「辞めろ」とやじを続けた聴衆に対し、共謀罪の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法を「早速運用執行すべし」と主張するフェイスブックの投稿があった。

 これに自民党の衆院議員が「いいね!」ボタンを押していたことが問題になった。当の議員は「誤って押した」と釈明。取材を受けて取り消したというが、このタイミングで、しかも与党の国会議員という立場だ。取り消して済む問題ではあるまい。浅はかという一言では片付けられない不気味さがある。

 運用次第で国民総監視社会にならないか−。多くの懸念や不安を引きずって、国会で過去3度廃案となった「共謀罪」から「テロ等準備罪」に呼称を変えた新法を創設する改正法が施行された。

 先の通常国会で、安倍政権は参院の委員会採決を省いて本会議に持ち込む奇策で成立を強行した。政権は、野党側が成立阻止へ「悪知恵の限りを尽くしている」(高村正彦副総裁)と批判。成立強行の誘因は野党にありとしたが、国民の受け止め方は違う。

 直後の東京都議選で自民党が歴史的惨敗を喫したのは、改正法の成立過程も要因と別の党幹部は認めている。「共謀罪」法には、安倍政権が数の力で強行突破したイメージがつきまとうに違いない。

 それは国民の同法に対する抵抗感の本質に通底する。捜査機関、ひいては権力側の胸先三寸で、強圧的な運用に陥らないかという懸念だ。

 安倍首相は「一般の方々が処罰対象になることはない」「捜査機関が国民の動静を常時監視する社会になるなどということは決してない」と説明してきたが、多くの国民は確証を得られていない。それが都議選惨敗の主因の一つであり、改正法の不具合はこの一点に集約されるだろう。

 日弁連は、政府が法改正の根拠とした国際組織犯罪防止条約の締結もテロ防止も、現行法の運用で対応可能とする有力な議論を提起。そもそも同条約はテロ防止が目的ではなく、マフィアなどの経済犯罪への対応が本来の趣旨だ。

 対象犯罪は当初の676から277に減らしたが、著作権侵害や森林法違反など「テロ」との関係に疑問符が付くものがまだまだ多い。一方で公選法違反や政治資金規正法違反といった公人に関わる犯罪を除外したことには、選別が恣意(しい)的な印象が残る。

 捜査機関には適用のハードルは高いとの観測もあるようだが、強権によって不可能も可能となるのは戦前、戦中の教訓だ。その適否を国民が逐次チェックするなど、権力監視を徹底する仕組みを抜きにして本格運用は認め難い。

(2017.7.12)

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