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第1部 異変 A卵が足りない

「禁じ手」海から親魚
2017年11月18日

 「海までは来ているのになぜ川には来ないのか。こんなことは初めてだ」

 宮古市の宮古漁協津軽石・松山ふ化場の総括場長、萬(よろず)直紀さん(58)は、お手上げといった表情で川面を見つめていた。

大幅な回帰減に見舞われる津軽石川の川ザケ漁。ふ化放流事業の根幹となる種卵不足に直面する=宮古市津軽石

 11月初旬、宮古湾の最奥部に位置する津軽石川。河口部に設けられた東西5メートル、南北15メートルほどの川ザケ漁の箱網は、不漁による9日間の休み明けで、遡上(そじょう)するサケを待つばかりだった。

 だが開けてみると、雄83匹、雌60匹の計143匹。東日本大震災前の6分の1足らずだ。

 久しぶりの漁の期待が裏切られ、皆の表情はさえない。10月の台風21号の増水で網が被害を受ける不運も重なり、10日現在の累計漁獲も511匹と前年同期の17%と激減している。

 歴史、漁獲量とも本県川ザケ漁筆頭の津軽石川。1980年度には北海道の河川を抜き、日本一となる26万2392匹を記録した。

 「当時は、川一面が魚体で真っ黒になった」と語る津軽石さけ繁殖保護組合長の山野目輝雄さん(81)。だが「どうしてこんなに減ってしまったのか…」。

 不漁は人工ふ化放流に使う卵の不足に直結する。

 サケの雌1匹から約2500粒を採卵できるが、津軽石川で確保した種卵は10日現在で59万3千粒と計画の11%。県内全体でも84%にとどまり、このままでは来春に放流する稚魚が不足する緊急事態だ。

 採卵・授精の作業を終えた萬さんは、ため息交じりに打ち明けた。「本当はしたくないが、海の魚を使うしかない」

 海の定置網で取れたサケを親魚として採卵用に回す「海産親魚(かいさんしんぎょ)」の使用は、種卵確保が厳しくなった震災後の2012年度から毎年続く。ただ、海から生きたままふ化場まで運ぶ労力に加え、海のサケはどこで生まれたか分からない、いわば本籍不明。仮に採卵、ふ化、放流しても4年後に戻ってくるかは分からない。母川を目指すサケの本能を、人の手で狂わせる可能性もある。

 長年自然を相手にしてきた漁業者にとって「禁じ手」にも映る海産親魚の利用。各ふ化場に海産使用を緊急通達した県さけ・ます増殖協会の川崎光博事務局長は「理想の在り方ではないが、このままでは増殖事業が立ち行かない。計画の種卵を確保するためにやむを得ない」と危機感を語る。

 稚魚放流4億匹態勢を維持し、漁獲量を増やしてきた本県のサケ資源。だが、この増殖のサイクルが狂い始めている。

本県のふ化放流事業 河川に回帰したサケは河口部に設置された川留め漁の網で捕獲され、人の手によって採卵・授精された後、ふ化場で育てられ春先に放流される。本県は1905(明治38)年に津軽石川に民間の人工ふ化場が開設され、ふ化放流事業が始まった。県や増殖協会は資源増大を目指し4億匹の放流数を掲げ、84年度に4億856万匹と目標を突破。震災時まで続けられたが、ふ化場が被災した震災以降は、2014年度(15年春放流)を除き4億匹を下回っている。本年度は4億201万匹の放流を計画する。


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