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第6部 被災地からの提言

保護法制、公表阻まず
2017年6月9日

 東日本大震災の本県の行方不明者は1122人に上る。一人一人に名前があり、歩んできた人生があった。しかし、今に至るまで氏名は公表されていない。

 釜石市箱崎町の市川八重子さん(65)は、父の佐々木正太郎さん=当時(86)=と母ウメ子さん=同(80)=が行方不明となり、市内の安置所を捜し回った。

 あの日から6年3カ月。両親が暮らしていた実家跡は草が生い茂り、高さ14・5メートルの防潮堤が視界をふさぐ。今も2人は見つかっていない。

 震災で漁師の夫要太郎さん=同(64)=も亡くした八重子さん。「親戚や友人に分かってもらうためにも氏名を公表してほしかった。連絡手段も限られる中、公表は当然の選択肢ではないだろうか」と強調する。

 災害時に行方不明者を公表することは、捜索の手掛かりを得ることや早期の安否確認に直結する。

 岩手日報社が今年1〜2月に行った遺族アンケートでは、震災で氏名を「公表してほしかった」と回答した行方不明者の家族が51・6%と過半数を占めた。東京都、神戸市、高知県の住民計千人に行ったアンケートでも7〜8割が災害時の行方不明者公表を求めている。

 しかし、個人情報保護法制の取り扱いなどをめぐって行政当局が二の足を踏み、2015年の関東・東北豪雨、昨年8月の本県の台風10号豪雨など、近年の災害でも行方不明者の匿名発表は続いている。むしろ、その傾向は強まっている感すらある。

 これは支援側にも影響を及ぼしている。県歯科医師会は震災当時、遺体の身元確認に必要なカルテ照合のため、行方不明者名簿の提供を市町村に求めた。だが、一部から「前例がない」「個人情報の取り扱いが難しい」と難色を示されたという。

 「行政の反応は異常だ」

 当時をこう振り返るのは、同医師会常務理事として交渉した歯科医師の菊月圭吾さん(62)=盛岡市松園。「一刻も早く遺族の元に帰したかった。災害時には個人情報などと言っていられない」と訴える。

 改正個人情報保護法が先月、全面施行され、行政の過剰反応による「匿名化」はさらに進む懸念がある。同法は改正後も、生命や身体、財産の保護のために必要で本人同意が困難な場合は、情報提供できる「例外規定」がある。

 行方不明者は、捜索によって公的な支援を受ける存在にもなる。首長は、災害時の行方不明者が「例外規定」に該当することを再認識し、氏名を公表する必要があるだろう。

 一方、行方不明者の公表によって、メディアスクラム(集団的過熱取材)や空き巣被害などを懸念する声もある。名前の速やかな公表は原則だが、当局が状況に応じて公表の範囲(住所・氏名・年齢・性別)を判断することも選択肢の一つとしてあってもいい。

【写真=津波で両親が行方不明となった実家跡に立つ市川八重子さん。氏名公表により「ありのままの事実を出してほしかった」という思いは捨てきれない=釜石市箱崎町】



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