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第5部 氏名公表の壁 Bためらう自治体

理解不足、有事に混乱
2017年5月11日

 東日本大震災で、津波被害と福島第1原発事故に直面した福島県南相馬市。原発から半径20〜30キロ圏内で屋内退避が指示された原町区には窓を閉め、自宅で窮乏生活を強いられた障害者がいた。

 「自分の家には安否確認が来ていない」

 被災から10日余り。知的障害者の通所施設を運営するNPO法人さぽーとセンターぴあ代表理事の青田由幸さん(62)と施設長の郡(こおり)信子さん(55)は、複数の利用者から思いがけない言葉を聞いた。

 市は震災前に二千数百人分の「災害時要援護者名簿」を作成していたが、希望者のみの記載だったため、安否確認から漏れた障害者が出たのだ。

 孤立している障害者がもっといるはず―。

 青田さんらは安否確認のため、市に障害者手帳の情報を開示してもらうことにした。

 そこに、思わぬ壁が立ちはだかった。

 市個人情報保護条例では「人の生命、身体又は財産を保護するため、緊急かつやむを得ないと認められるとき」は個人情報を第三者に提供できる規定がある。

 早速、青田さんらが開示請求をした。だが、前例がないため、市内部で総務サイドなどから「誰が責任を取るのか」などと反対意見が出たという。個人情報保護審査会の審査が必要とも言われたが、審査委員は原発事故で広域避難しており、会議は開けない。

 平時の判断を押し通そうとする市の姿勢に歯がゆさを感じた。

 物流は止まり、市内に食料やガソリンは入ってこない。4月に入り、危機感を募らせた青田さんは「障害者が死んでしまう」と桜井勝延市長に直談判。最終的に、1139人分の手帳の情報が開示された。

 問題の把握から3週間余り。ようやく、戸別訪問による安否確認ができるようになった。当時、市健康福祉部長だった西浦武義さん(65)=現市社会福祉協議会長=は、当初から青田さんの請求を支持した一人。「庁内に反対意見もあり、どうなることかと思った。結果的に、情報を開示したことへの苦情は1件もなかった」と振り返る。

 当時、「緊急かつやむを得ないと認められるとき」に何が該当するかの判断に迷った南相馬市。この教訓から市は、2012年3月に同条例を改正、第三者に個人情報を提供できる規定に「災害時等において」の文言を加え、判断しやすい環境整備を図った。

 防災システム研究所(東京都)の山村武彦所長は「個人情報保護法制では緊急時に個人情報を開示できる例外規定があり、多くの識者も安否情報を公表すべきだとしている。だが、条例に災害時について書かれていないことが多く、慎重になりすぎて公表を見送る傾向がある」と指摘する。

 自治体間に広がる個人情報への過剰反応や法制への理解不足。やはり災害時の安否情報開示については、明確な基準を作り、平時から浸透させる必要があるのではないか。

 「行政は、個人情報を開示して支援につなげるという仕組みになっていない」。青田さんは、今の自治体の本質をこう突いてみせた。

 【写真堰%兼本大震災当時に障害者手帳の開示に動いた青田由幸さん(左)と郡信子さん。「個人情報保護に対する過剰反応があった」と振り返る=福島県南相馬市】

 【写真=震災後に改正された南相馬市の個人情報保護条例。第三者提供の規定に「災害時等において」の文言が付け加えられた】

 



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