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第5部 氏名公表の壁 @公表求める民意

行政の姿勢と隔たり
2017年5月7日

 災害時は避難者や行方不明者の氏名を公表してほしい−。岩手日報社が東京都、神戸市、高知県の3地区で行った安否情報に関する直接面談調査で大きな民意が明らかになった。行政当局が個人情報保護などを理由に「匿名化」に傾く中で、調査結果が示す民意との隔たり。発災初期に住民が求める「命の情報」の公表に向けた課題を探る。

 「両親の安否が分からない2、3日間はとにかく不安だった」

 本県に甚大な被害をもたらした昨年8月の台風10号豪雨。宮古市川井出身で東京都品川区の会社員山内京子さん(61)は当時の心境を振り返った。

 東京では地元の詳しい被害情報を得ることは難しい。両親の無事を確認できたのは、盛岡市に暮らす妹が実家に向かえるようになった2、3日後だった。

 今回の調査で避難者の氏名公表を望んだ山内さんは、「離れて暮らしているので安否情報は積極的に公表してほしい。広く発信しなければ家族や親類に安否は伝わらない」と強調する。

 高知市比島(ひじま)町の病院職員山中美香さん(55)も「安否につながる情報として避難者の氏名が明らかになれば安心する。明らかになって困る人はそういないのでは」との考えを示した。

 発災から22年がたった阪神大震災。神戸市では家族らを捜して避難所を回った苦労や、避難先を記した貼り紙が役立ったなどの経験から「公表」を望む声も多い。同市中央区の藤山世利子さん(48)は「非公表は無関心につながり、その人が存在した証しや災害の教訓が残らなくなる」と継承の重要性を説いた。

 避難者や行方不明者の氏名公表の判断は自治体に委ねられ、近年は災害によって不明者の「公表」「非公表」の対応が分かれた。岩手日報社が行った全国47都道府県調査では、多くの自治体が公表の「壁」に個人情報保護を挙げている。

 それに対し、神戸市垂水(たるみ)区の民生委員伊藤美知子さん(68)は「衆目にさらされるのが嫌という人はおり、公表は時と場合による。ただ、社会的に『個人情報保護』が先走っている印象がある」と指摘する。

 高知県安芸(あき)市の公務員海治智徹(ともゆき)さん(32)は「災害時は、安否情報を優先すべきだ」と主張。一方で「不明者については、そっとしておいてほしいと思う家族もいるだろう。家族の了承を得てから公表すべき」と配慮の必要性も述べた。

 配偶者からの暴力やストーカー被害など配慮すべき人々の存在。情報の悪用や空き巣、マスコミ取材による家族の負担など、氏名公表の課題や懸念はある。

 東京都墨田区の時計店経営高野尚之さん(51)は「災害は経験しなければ分からないことも多い。氏名公表は個人情報の問題もあって判断が難しい部分があるからこそ、取り扱いや仕組みを国が事前に検討すべきではないか」と訴える。

 阪神大震災や東日本大震災などの教訓を踏まえ、国の災害対策は強化されてきた。だが、災害時に最も知りたい安否情報の公表に関する定めはないまま、「匿名化」が拡大傾向にある。公表を望む民意との隔たりをどのように埋めていくべきだろうか。

【写真=岩手日報社が東京都、神戸市、高知県の3地区で行った災害時の「匿名化」アンケート。避難者や行方不明者の氏名公表を望む民意が浮き彫りになった】



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