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第4部 実名の価値 @「カトリーナ」の教訓

米国では公表が常識
2017年4月7日

 2005年8月29日。米国史上最大級のハリケーン「カトリーナ」が上陸した南部ルイジアナ州ニューオーリンズは、未曽有の混乱に陥った。人口約45万人のうち、35万人は事前にテキサス州などに広域避難していたが、移動手段を持たない貧困層ら10万人が取り残されていた。

 当時、市内に本社を置く地元紙タイムズ・ピカユーンの記者で、今年3月まで同紙を経営するノラメディアグループ副社長を務めたジェームズ・オバーン氏(57)は、湖や運河の堤防が決壊する様子を目の当たりにした。

 「壊滅的だ」。市内の8割が浸水し、多くの犠牲者が出ることは明らかだった。

 屋内競技場スーパードームには数万人が身を寄せた。支援が遅れ、水、食料、電気すらない劣悪な環境。最終的にルイジアナ州を中心とする被災地で、死者は1833人、行方不明者135人に上った。

 「誰が生きていて、誰が死んだのか」

 発災直後は、知る由もなかった。米南部の各州では約200万人にも上る大規模な広域避難も重なり、安否は誰もが求める最優先の情報になっていた。

 人的被害の集約は行政機能が停止したニューオーリンズに代わり、州政府が担った。100キロ離れた州都バトンルージュには遺体安置所が置かれ、身元確認が行われた。

 州が設置したルイジアナ家族支援センター(LFAC)では行方不明者の届け出を受け付けた。その数は1万3197件。死者や行方不明者のリストは随時更新・公表され、メディアも発信に注力した。

 当時、疫病学者として身元確認に携わった州政府保健医療局のラウル・ラタード医師(72)は「行方不明者の氏名などの個人情報を米国では公表するのが常識。捜索に役立てるため、むしろ公表されなくてはいけない」と強調する。

 「カトリーナ災害で起こったことを全て伝える」

 上陸時、記者ら100人余りが本社ビルに詰め、災害報道に徹したピカユーン紙も例外ではない。工場は浸水し、新聞は印刷できない。唯一、ネット環境だけは生きていた。同紙のネット版「ノラドットコム」で、安否情報を伝える決断をした。

 「行方不明者の数をなるべく減らしたいというのは当たり前の感覚。不明者の氏名は公開されるべき公共の情報だ」とオバーン氏。

 州外の避難先や浸水した家屋の中で不安に打ちひしがれる被災者に発災直後、地元紙から「命の情報」が届けられようとしていた。

 大規模災害時、安否情報はどう扱われるべきか。近年、日本国内では個人情報への過剰反応などから当局が「非公表」とするケースが相次ぐ。05年夏、死者・行方不明者計約2千人に上る米国史上最大級のハリケーン「カトリーナ」を経験したルイジアナ州を訪ねた。そこでは「実名発表」が当然という強い意識の中で行政もメディアも動いていた。次なる大災害に備え、氏名公表のルール作りを模索する日本国内の自治体の動向も合わせ、「実名の価値」について考える。

【写真=カトリーナ報道を振り返るジェームズ・オバーン氏(左)とノラメディアグループのスタッフ。市街地は浸水し、安否情報は不可欠だった=米国・ニューオーリンズのタイムズ・ピカユーン社】

 ハリケーン・カトリーナ被害 2005年8月23日にバハマ沖で発生。メキシコ湾を通過中の28日に勢力は最大級のカテゴリー5に発達し、最大風速は秒速78メートルに達した。29日にルイジアナ州に上陸し、ミシシッピ川河口部に形成されたニューオーリンズは、高潮被害に加え、湖や運河の堤防決壊による洪水に見舞われた。22カ所の主要排水ポンプも機能せず、市内の8割が浸水。貧困層が多く取り残され、犠牲者は黒人や高齢者の比率が高かった。略奪・暴動のデマも流れ、連邦緊急事態管理局(FEMA)の支援の遅れが批判を浴びた。被害額は約1250億ドル(約14兆円)で阪神大震災を上回った。


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