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第3部 見過ごされる名前 C孤立はらむ公営住宅

顔の見えない関係性
2017年3月5日

 かさ上げされた中心市街地に鉄筋コンクリートの高層住宅3棟がそびえる。山田町川向町の「山田中央団地」。ポストや玄関に表札のある世帯は少なく、外部から暮らしの気配を感じ取ることは難しい。

 「どこに誰がいるか分からない。鍵をかける生活をしたこともなかったのに」

 海風が吹き抜ける外廊下を通り、2月に入居した相沢敬子さん(85)は鉄の玄関扉を開いた。

 昨年末の完成以降、全146戸のうち120戸が入居。しかし、自治会は発足前で、集会所の利用も始まっていない。健康不安もぬぐえない中、「話せる機会にもなるし、早く自治会ができてほしい」と顔の見える関係性に期待する。

 県内の災害公営住宅は4320戸が完成し、約9割が入居済みとなった。特にも中心部に立地する公営住宅は生活の利便性が高く、各地から入居希望者が集まり、高齢世帯も多い傾向にある。

 「山田中央」も今月、町が主導して入居者の顔合わせ会を開く。だが、県や市町村が持つ入居者名簿は「あくまでも管理のため」で、個人情報保護の面から自治会には基本的に提供されていない。

 自治会が発足して1年余り経過した大船渡市大船渡町の「上平(かみひら)団地」。入居者の承諾を得て管理人の持つ名簿を各戸に配布したが、情報は世帯主と電話番号にとどまる。本来、見守りのために必要な世帯構成や要支援者の情報は分からないままだ。

 団地会長の梶原文彦さん(56)は「個別に訪問して調べる必要性は感じているが、働いている役員が多く、正直手が回らない」と打ち明ける。清掃活動やお茶会を通して住民間の顔合わせにも努めたが、高齢者と忙しい現役世代の認識のずれもあり、活動の難しさに直面する。

 避難所、仮設住宅、そして公営住宅−。

 被災者は生活の場が変わるたびにコミュニティーの断絶にさらされてきた。時間の経過とともに、公営住宅の入居者は高齢化し、孤独死などの潜在的なリスクは増している。

 仮設と災害公営住宅のコミュニティー形成を手掛けた、仙台市太白(たいはく)区のNPO法人つながりデザインセンター・あすと長町の飯塚正広代表(55)は「私たちの公営住宅では自分たちで名簿をつくり、見守り活動をしている。行政主導ではなく、住民間で信頼関係を構築し、孤立を防ぐ自治会独自のセーフティーネットが必要だ」と強調する。

 誰が暮らし、どのような支援が必要か。災害時の安否確認や孤独死を防ぐためにも、世帯構成や要支援者情報を含めた入居者名簿を作り、平常時から顔の見える関係を構築することが欠かせない。しかし、ここにも「個人情報」の壁が立ちはだかる。

【写真=自治会が発足して1年余り経過した上平団地。ポストに表札を掲げる世帯は少なく顔の見える関係構築が求められている=大船渡市大船渡町】



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