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第3部 見過ごされる名前 B弱者支援の壁

進まない情報の共有
2017年3月4日

 「歩行器を使っていた母が自力で避難することは難しかっただろう」

 両下肢(かし)機能障害がある釜石市上中島町の長谷川忠久さん(75)は、東日本大震災で犠牲になった母はなさん=当時(100)=を思い起こし、つぶやいた。

 死者の約6割が高齢者、障害者の死亡率は住民全体の約2倍−。この実態を受けて国は震災後、災害弱者の避難対策強化に乗り出した。その一つが、避難に手助けが必要な「要支援者」の名簿作成の義務化だった。

 「ここ2、3年で腕の力が弱くなり、何かあったらと思うと不安はある」と語る長谷川さん。名簿の大切さを強調した上で「人によって必要な支援も違う。普段から付き合いがないと、災害時に助けてと言いにくい面はある」と指摘する。

 一刻を争う災害時に迅速に避難を支援し、命を守る。そのためには、民生児童委員や消防団などの関係機関が事前に名簿情報を共有し、連携の仕組みをつくることが求められる。

 だが県内で、名簿の事前提供は進んでいない。

 岩手日報社の調べでは、事前提供に関する「同意」の確認作業を行う県内27市町村で、同意したのは要支援者のうち約30%。障害を知られることに抵抗がある人もおり、個人情報の壁に苦慮する自治体も少なくない。

 それに加え沿岸被災地は、自力再建や災害公営住宅への入居で住所変更する住民が多く、新たな弱者把握や情報更新も課題だ。

 昨年12月、陸前高田市高田地区民生委員児童委員協議会長になった同市高田町の久納(くのう)豊さん(69)は、前会長から高田町の要支援者名簿を引き継いだ。

 だが、「この地区には自宅再建などで1カ月に約100人の出入りがある。他地区から転入した要支援者もいると思うが…」と久納さん。手元の名簿は147人分だが、「普段、把握していない要支援者を災害時に支援するのは難しい。だからこそ、顔の見えるつながりが重要」と訴える。

 災害対策基本法で、名簿情報の平常時からの提供は「本人の同意が必要」とするが、市町村の災害対策基本条例などで独自に定めている場合は、本人の同意を要しないとしている。

 千葉市は条例を定め、要支援者本人から拒否の意思表示がない限り、平常時から自主防災組織や町内自治会などに名簿情報を提供。長野県茅野(ちの)市は警察、消防、民生委員については同意の有無にかかわらず提供するとしている。

 しかし、実際に条例を定めている自治体はわずか。国の調査(2016年4月1日現在)によると、「条例に特別の定めがある」のは調査対象1735市町村のうち44市町村(2・5%)で、本県はゼロだ。

 災害弱者、そして支援者の命を守るために、名簿情報の事前提供は進めていかなければならない。高齢化に伴い、要支援者は増す。他県の先進事例も踏まえ、条例などで積極的な対応が求められる。

【写真=久納豊さんと陸前高田市避難行動要支援者制度登録申込書のコラージュ。災害弱者の避難支援には平常時からの情報共有が欠かせない】



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