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第1部 安否を伝える Cメディアスクラム

記者殺到、遺族の元へ
2017年1月6日

 台風10号の上陸から一夜明けた昨年8月31日。本県の甚大な被害状況が明らかになる中、一つのニュースがテレビや新聞で大きく報じられた。

 <岩泉町乙茂(おとも)の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」付近で男女9人の遺体>

 施設裏の小本(おもと)川が氾濫し、入所者全員が犠牲になった現場にはメディアが殺到した。9月2日から、身元が判明した犠牲者の氏名や年齢が公表されると、記者たちが向かったのはそれぞれの遺族の元だった。

 「会う人会う人、みんな報道関係の人に見えて…。自分もきょうだいも(取材を)負担に思ったし、すごくピリピリしていた」。母アサヱさん=当時(84)=を亡くした紫波町の曲澤(まがさわ)政春さん(58)は当時の心情を吐露する。

 岩泉町の遺体安置所で母と対面した直後だった。外に出ると急に報道陣に囲まれた。質問が多かったことは覚えている。ただ、何を聞かれたのか、自分が何を話したのかは記憶にない。

 大きな事件や事故、災害時にメディアが殺到し、当事者や関係者に苦痛を与えるメディアスクラム(集団的過熱取材)。東日本大震災でもあった。今回の台風10号豪雨の被災地でも繰り返された。

 一日に何度も鳴る玄関のチャイム。周囲を歩きながら、家の中の様子をうかがう記者。1社の取材を断っても次から次に別の社が自宅を訪ねてくる。「いつまで感傷に浸ってるんだ」−。こんな心ない言葉をかけられた遺族もいた。

 岩泉町中島の千葉利光さん(59)は兄繁喜(しげき)さん=当時(77)=が楽ん楽んで犠牲になり、「施設側の責任を問うような言葉を言わせたいという意図を感じた」。町役場小川(こがわ)支所長としても取材に応じたが、「一方的な報道ではなく、遺族や被災者の心に配慮し、事実を伝えてほしい」と訴える。

 岩泉町は被災から約1週間後、避難者の精神的負担を考慮し、避難所や役場内の取材場所や時間を制限した。一方、情報発信の必要性から▽記者会見の定例開催、報道対応窓口の一本化▽報道関係者の控室を設置−などの対応を取った。

 「自分の家族だったらどうするか。取材前に思いやりを持つことだ」。立教大の服部孝章名誉教授(メディア法)はこう指摘し、「取材制限や行方不明者の非公表の要因にしないためにも報道機関同士の調整やルールづくりが必要。教訓を伝えるという報道意義を理解してもらう努力も求められる」と強調する。

 報道には、同じ悲劇を繰り返さないために伝える役割がある。だが、メディアスクラムが災害時の匿名化の流れを強める背景の一つになっているとの指摘について、記者は謙虚に耳を傾ける必要がある。

【写真=犠牲者追悼慰霊式を取材する報道陣と岩泉町の取材制限文書のコラージュ。過熱報道が匿名化を強める一因との指摘がある】



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