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2017.12.5

 大正の世に男の一人暮らしは不便だった。時間を定めずに商人が物を持って来る。ガスや電気の集金も、いいかげんな時に来る。独身が長かった作家の永井荷風が「独居雑感」という一文で嘆いている

▼勝手な時間に来訪するばかりか、相手は釣り銭も持っていない。これらの応対で外に出られない。「独身で一家を構え小綺麗にくらして行こうと思うと、とても家を明(あ)けて毎日出勤するようなことは出来なくなる」

▼時は移り、独身生活にも全く不自由ない時代になった。宅配便は五つの時間帯指定で届けてくれるし、留守なら親切にも再配達してくれる。ところがこの師走、きめ細かな宅配サービスが危うくなっている

▼ネット通販が急増した上、12月はクリスマスやお歳暮の荷物が集中する。宅配各社は予約制などで対応するが、荷物の量に人手が追いつかない。今年を象徴する「宅配危機」も、始まりは昨年暮れの配達遅れだった

▼大正の粗末なサービスを荷風は「英米に比することは出来ない」と断じた。でも荷物をただ置いていく米国に比べ、現代日本の宅配は進化を続ける。食品の配達を1時間単位で指定できるサービスも現れた

▼便利に慣れきって、配達する現場の悩みなど忘れがちな現代だ。プレゼントを届けてくれるサンタがいる。その労苦に少しでも心を寄せたい師走だろう。


   
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