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東日本大震災企画
第5部 医療・福祉の現場(3)
透析維持へ定期交信 2014年8月16日


 「岩手透析ネット各局、お聞きでしたら応答願います」

 盛岡市大通3丁目の泌尿器科「いするぎ医院」駐車場。院長の岩動(いするぎ)孝さん(72)は12日の昼休み、自家用車に設置したアマチュア無線機で仲間にこう呼び掛けた。

 岩手透析ネットは、岩手腎不全研究会に加入する県内の全45透析施設(県立病院、民間病院など)でつくるアマチュア無線のネットワークだ。30年来の愛好家である岩動さんらが中心となって東日本大震災後に組織作りに乗り出し、2012年9月に発足した。

 「震災当時、通信の途絶によって透析患者の命が危ぶまれる事態が生じた。インターネットや電話が不通になっても、アマチュア無線ならそれを防ぎ得る」と岩動さん。

 ネットワーク構築に当たっては、東京の公益財団法人の支援で施設ごとに無線機器を設置、予備バッテリーなども配備した。各施設2人ずつ無線技士を養成し、クラブを結成している。

 「日ごろから遊び感覚で触れ、いつでも使いこなせることが大事」。岩動さんは今、毎週火、木曜の定期交信を率先している。

 命をつなぐため2、3日おきに人工透析を続ける県内の患者は約3千人。1回200リットル近い水のほか、電気や多くの医療資材などが欠かせない。

 次の大災害はいつ起きるか分からない。そのとき、それらの供給を途絶えさせない手だてをどう構築しておくか。

 岩手腎不全研究会は震災後の11年10月、県や関連団体、医療資機材の販売業者などとワーキンググループを結成し、さまざまな観点から対応策を練ってきた。

 事務局を務める岩手医大医学部泌尿器科学講座の大森聡講師は「アマチュア無線のネットワークはその一環だ。災害時、透析施設においては必要最小限の情報を確実に伝えていくことが重要だ」と強調する。

 災害時の透析対応のため「透析施設用」「行政用」「関連業者用」の計3種類のマニュアルを作成。

 「3者が連携を図りながら、それぞれが与えられた役割をしっかり果たす。それが震災の教訓を生かした慢性透析維持の岩手モデルだ」と話す。

 本県では震災時、多くの関係者の努力の結果、患者の組織的な県外移送をすることなく約3千人の透析医療を維持した。だが、透析が滞ったことで沿岸部の避難所から救急搬送されたり、透析時間の短縮を余儀なくされた患者もおり、その克服が同研究会の一連の取り組みの原動力となっている。

 岩動さんによると、岩手透析ネットの定期交信は熱心に参加するクラブがある一方、操作になじめず参加率の低いクラブもあるのが悩みという。

 「ネットワークは作ることよりも維持することの方がずっと難しい。各クラブの参加率を上げる努力を続けたい」

 命を守る現場の地道な取り組みの一端だ。

【写真=岩手透析ネットの仲間と定期交信する岩動孝さん。災害時にも活用できるように、アマチュア無線と親しむ環境づくりに力を注ぐ=12日、盛岡市大通3丁目】


 
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