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<震災6年 いま街が見える>
復興工事が進む陸前高田市。かさ上げされていく景色を目にしながら感じていた日々の思いとは。あたらしい街がかたちになる今だからこそ「かつての陸前高田」を大切に、これからの世代につないでいきたいと願う2人の女性に聞いた。



<阿部裕美さん>

「震災前の記憶やそれよりもずっとずっと前の陸前高田のことを、土の下に埋めてしまわずにみんなで共有して、悔しくも犠牲になってしまった方々と一緒に、かさ上げした土のうえに上がりたいと思います」

工事が進む陸前高田市の中心市街地=2017年2月

2017年に入り、陸前高田市では新たな中心市街地のかたちが見え始めた。

かさ上げ工事の様子を見守ってきた同市の阿部裕美さん(49)は、かつては住宅地や商店街だった場所に土が盛られているのを見て「ずっと気持ちが落ち着かなかった」という。「喪失感やむなしさを感じました。それまでのことが、なかったことにされちゃうんじゃないかって」

震災後は災害エフエムのパーソナリティーを務めた阿部さん。2016年3月から「高田のじいちゃん高田のばあちゃん 昔がたり」という手作りのイベントを始めた。

昔がたりの会で司会を務める阿部裕美さん(右)

市内に住むお年寄りに、伝統行事や昔の暮らしぶりを語ってもらい、皆で聞く会。阿部さんが昔がたりの会会長として、有志と一緒に取り組んでいる。最初は「昔の陸前高田の話を聞くなら今しかない」という気持ちで始めたものの、話し手の生き生きとした表情、聞き手の嬉しそうな笑顔を目にするたびに「震災後に生まれた子どもたちや仮設住宅で育った子たちに『陸前高田にはこんなにあたたかい時代があったんだよ』と伝えたい」という気持ちが強くなった。

古川沼でのシジミとり、戦時中は食べ物に苦労したこと、海でタツノオトシゴと泳いだこと−。「皆さん本当に懐かしそうな笑顔で聞いている。ああ、同じ時代を生きてきた皆さんの目の前には、同じ景色が見えているんだと思いました。震災から5年過ぎた今だからこそできた企画だと思います」

「いい街だったよねえ」「お祭りの時なんて、すごかったんだから」。話し手がつぶやくたびに会場からは相づち代わりの笑顔がこぼれる。

かつての伝統行事や遊びの思い出を懐かしむ参加者

回を重ねるごとに感じたのは、参加者の中にある「あたたかさ」だけではない。しなやかな「強さ」だ。「80代や90代の皆さんは、戦争やチリ地震、食べ物のない時代も経験してきた。そんな苦労を乗り越えた皆さんが時に笑いを織り交ぜながら話してくださる。その強さを自分も学びたいと思うようになりました」

陸前高田の歴史や営みは、ずっとずっと続いている−

「地元の人たちは、そんなことは分かっているんです」と阿部さん。それでも、かさ上げ工事が本格化する今だからこそ、あえて口にしてみるのだという。

「ゼロからのまちづくりとうたわれているけれど、全てがゼロになったわけではありません。後生に伝承するのは震災だけではなく、まちを失う前の高田の歴史もまた伝えていかなければならないと思っています」

今秋には、震災で被災した和食店を復活させる阿部さん。阿部さんもまた、これからの陸前高田の営みを紡ぐ1人として、新しい街と向き合う。

阿部さんとともに活動を支える前田千香子さん(右)

<つみ語り>昔がたりの会の活動を知った岐阜県の情報科学芸術大学院大学・金山研究室の生徒が開発したシステム。これまでの「語り」の中で出てきたキーワードが書かれたカラフルな積み木を地図上に並べ、積み木の裏にあるQRコードを活用すると、語り手の声でエピソードを紹介してくれる。今後はこれを活用しながらの催しも検討しているという。

昔がたりの会では、「陸前高田昔がたり」フェイスブックページでも動画や書き起こしを公開中。



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