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<特集>岩手・宮城内陸地震
岩手・宮城内陸地震

 奥州市衣川区で震度6強を記録した岩手・宮城内陸地震は、多くの県民を震撼(しんかん)させた。山間部で発生した「直下型地震」。最大約340人に上った孤立者は全員救出されたが、断水などライフラインへの影響は依然として続く。今回の教訓を近い将来、予想される宮城県沖地震にどう生かすか。現状と課題を追う。


 烈震の恐怖 家族思い緊張の一夜 2008年 6月16日

 地震発生から約22時間後の15日午前6時すぎ。一関市厳美町の祭畤(まつるべ)地区の孤立地帯で一夜を過ごした2人がヘリコプターで救出された。

 気仙沼市錦町の自営業小野元さん(60)、前橋市の観光バス運転手早川留雄さん(57)。小野さんは家族と須川温泉に向かう途中、早川さんは観光ツアーのバスを運転し栗駒山を目指していたときに、地震に見舞われた。

 乗客や家族が待つ避難所となった一関市厳美町の本寺小。2人は同行者と再会し、ようやく緊張を解いた。

 車中で一夜を過ごした早川さんは「暗く静かな場所で余震の音が響き怖かった」と不安な思いを口にした。

 一関市厳美町祭畤の農業佐藤律雄さん(62)も15日朝、妻洋子さん(58)とともに救助され、肩を寄せ合い家族と無事を喜んだ。

 しかし、烈震の恐怖は今なお残る。

 14日午前8時43分。佐藤さんは家の軒下に座り、草刈り機の刃を研いでいた。

 「ゴォ、ゴォゴー」。

 山が動いたかのようなごう音と強烈な地面の突き上げ。自家用車は「ボン、ボン」と弾みながら、前に動いた。家族の安否が気になった。身動きがとれなかった。

 孫の龍弥君(本寺小3年)の姿が見えなかった。「たつや、たつや」と叫ぶと、こたつの中から顔がのぞいた。「涙が出るくらいほっとした」と発生直後の混乱を振り返る。

 山あいの静かな集落を襲った大地震。集落への道は寸断され、復旧のめどが立たない中、相次ぐ余震が住民らの胸を締め付ける。テレビに磐井川がせき止められた「せき止めダム」が映るたびに、「水が増えたのでは」と心配の声が上がる。

 佐藤さんは「来月から収穫時期だったブルーベリーは作業ができず、だめだろう。今年の冬はどうなるのだろうか」と疲れた表情で、ため息をつく。

【写真=地震から一夜明け、ヘリで救助された早川留雄さん(中央)=15日午前6時10分、一関市厳美町の瑞泉閣駐車場】


 震災ストレス 解消へ息の長いケア 2008年 6月17日

 「とにかく一度帰りたい」。避難所生活3日目に入り、一関市厳美町の本寺小で生活を送る被災者には、疲労感が漂い始めた。

 自宅に牛2頭と犬1匹を残したまま避難した市野々原地区の佐藤征子さん(67)は「ここに来る前にドラム缶半分に水を入れてきたが、もうなくなってしまっただろう。かわいそう」と心配する。16日の被災者と一関市との懇談会でも、生活必需品やペットなどを残した住民から一時帰宅の要望が出た。

 しかし、寸断された国道342号は復旧の見通しが立たない上、余震の危険性が高く、一時帰宅は当面厳しい状況だ。

 「助かった」という安(あん)堵(ど)感が落ち着き、今後の生活を心配し始めた住民。もどかしさが募る。

 15日に避難所を訪れた県精神保健福祉センターの黒沢美枝所長は「ヘリコプターの大きな音が響いたり、報道陣の取材が入ったりと、被災者はストレスにさらされている」と指摘する。

 心のケアは、避難住民だけの問題ではない。一関市厳美町本寺の会社員高橋智香子さん(34)は「余震には慣れてきたが、子どもたちだけで寝させるのは心配」と語る。

 奥州市衣川区の衣川小では16日、交流集会を開き、スキンシップ主体のケアを行った。

 新潟県中越沖地震で対応した同県精神保健福祉センターの大矢政昭参事は15日から本県入り。「息の長いケアが必要で、自然な声掛けや励ましの中で、精神的な変化を見つけてほしい」とスタッフらにアドバイスする。

 16日に本寺小を訪れた、災害ボランティア活動支援プロジェクト会議(東京)委員の桑原英文さん(43)は「心のケアは見落とされがち。避難所を設営する場合から注意が必要だ。避難訓練だけでなく、避難の際のルールまで確認しておくと無駄なトラブルが減る。いつ、どこでも災害が起きることを考えると、そこまで準備する必要がある」と指摘する。

【写真=医療スタッフから声を掛けられリラックスする住民。こまめな声掛けが心のケアにつながる=一関市厳美町・本寺小】


 将来への備え 山間の安否確認課題 2008年 6月18日

 一関市災害対策本部の家屋調査の立ち会いで17日、ヘリコプターで祭畤(まつるべ)地区の自宅に戻った高橋慶悦さん(75)は「これを持ってきたから大丈夫」と妻美恵子さんや先祖の位牌(いはい)を握りしめた。

 「まさかここで起こるとは」。避難している住民の言葉が、防災体制の再点検の必要を言い表している。

 今回の現場は山間地の行楽地。県内には同じような地帯が多く、新たな課題が浮き彫りになった。

 「住民以外の被災者の有無はヘリコプターでの確認に頼るしかない」と一関市の災害対策本部の担当者が語るように、登山客や観光客らの安否確認は見直しが必要。山間地ゆえに、通信手段も課題の一つだ。

 16日現地入りした増田寛也総務相は「山間部では、旅行者などの安否確認は目撃情報に頼るしかない。衛星携帯電話が必要になるかもしれない」と新たな通信手段の必要性を指摘した。

 一方で、今回の地震では発生後、住民の連携意識の強さや行政側の素早い対応が被害拡大を食い止めた。

 消防庁は発生直後に対策本部を設置。県警、海上保安庁、自衛隊など、最大で約20機のヘリコプターが救助に入り、24時間以内に約250人の孤立者を無事、救出した。

 緊急消防援助隊の強力敏彰指揮支援隊長(札幌市東消防署消防司令長)は「これだけの規模の地震で2日で救出を終えたのは、かなり対応が早い。過去の教訓を生かしうまく連携できた」と語る。

 市野々原地区の行政区長の佐藤勝雄さん(69)は「小さな集落だからみんなで協力し、対応できた」と振り返る。

 日本防災士機構防災士で、宮古市消防団員の高橋優さん(58)=同市田老=は「大地震では、津波を考えるが、田老地区は山の木々が切られ土砂崩れの可能性も高まっており、今後は『山津波』のことも考えていかなければならない」と気を引き締める。

 これまで確認されていなかった活断層が突然襲った岩手・宮城内陸地震。冬季、夜間、悪天候だったら…。災害対策の鉄則をもう一度心に刻み、今後に備えたい。

 (報道部・斎藤孟)

【写真=地震が発生し、慌ただしく県職員と打ち合わせする札幌市や総務省の職員。防災体制の再点検が必要だ=14日、県庁】

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